帰国を取りやめ「アメリカンドリーム」を目指す中国人

ところが、アントの上場中止事件で、「先端IT企業といえども、共産党のさじ加減次第でどうにでもなる」ということが分かった。自由な活動が制約なしにできるわけではなく、共産党の鼻息をうかがいながらでしか活動ができない。

そうなれば、優秀な人間は、アメリカでの勉学を終えた後、中国に戻るのでなく、アメリカにとどまることを選ぶだろう。

Zoomの創業者エリック・ヤン氏は、中国の大学で学位を取ったあと、アメリカのIT企業に参加し、その後独立した。そして、新型コロナ下で事業を急拡大し、売り上げが急増した。まさにアメリカンドリームを実現しているわけだ。

こうしたことを見れば、それに続こうとする者が出てくるだろう。それは、アメリカの技術力を高めることになる。そして、中国の発展にとってはマイナスに働く。中国の経済発展は大きな打撃を受けることになるだろう。

科学技術の発展に「最も重要なこと」

科学技術の発展にとって最も重要なのは、自由な活動が認められることだ。このことは、すでに第2次世界大戦中に、アメリカがヨーロッパから優秀な人材を受け入れたことで実証されている。

野口悠紀雄『良いデジタル化 悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)

そして、1990年代におけるIT革命も、アメリカ人によって実現されたというよりは、インド人や中国人によってなされた。そうした人々が、中国の経済発展によって中国に移ったのだ。

しかし、今回の事件をきっかけに、その揺り戻しが起こるかもしれない。これは、中国の経済発展にとって深刻な問題となる可能性がある。

以上で述べたことは、中国共産党としても十分認識していることであろう。

したがって、今回の決定は、単なる偶発的・一時的なものではなく、周到な検討の結果行われたものだろう。その意味でも、重要なものだ。

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