政府支出に足りない分は、日銀が国債を買い取って、新しく刷ったお金を政府に渡す(厳密にいえば日銀当座預金を増やす)ことによって賄う。こうしていれば「打ち出の小槌」を得た政府が資金不足で財政破綻を起こすことは無い。

しかも日銀が国債を爆買いするから長期金利は低位安定し、財政赤字が膨らんでも誰も危機感を抱かなくなってしまった。通常、財政赤字が膨らむと国債が増発され長期金利が上昇する。この「警戒警報」が機能しなくなったからだ。

もはや財政楽観論は通用しない

異次元緩和で世間の財政に対する危機感が喪失する前、すなわち財政への危機感が多少なりとも存在した時期でも、確かに財政楽観論は存在した。

外国人の間で主流だった楽観論は「日本の消費税は世界で最も低いレベルだ(当時5%)。財政破綻の危機が迫れば日本政府は消費税を切り上げて対処する。だから財政は大丈夫」論だ。

これに対しては当時も今も私は疑問に思っている。当時の単年度赤字額は30兆円から35兆円。5%の消費税を最低20%に上げたとしても、やっと単年度赤字が解消するだけで、借金総額の減少にはつながらないからだ。

それも、これだけ巨額の借金額だから、金利が上昇せずに金利支払いが急騰しないという条件での話だ。

財政破綻を乗り切るためにはもっと激しい消費増税が必要だが、日本の政治情勢で政府がそれを選択するとは到底とは思えないからだ。

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多額の個人金融資産があっても財政破綻はやってくる

もう一つの財政楽観論は、日本人の間ではやった論だが、個人金融資産が約1641兆円もある(2012年度末)。国の借金総額(960兆円:2012年度末)が、個人金融資産額を超えるまでは、国の借金はファイナンス可能だ。だから財政破綻は当面心配ない、というもので、かなり多くの識者が主張していた。

一国経済に資金的余裕がありさえすれば、政府財務は持続可能だという考え方だ。この説を是認すれば、政府の借金は、いまだ個人金融資産の半分ちょっとにすぎない。

冒頭で紹介したように、今や個人金融資産は2000兆円規模に達し、2012年度当時に比べても資金的余裕は大きくなった。「だから、さらに財政出動を!」ととんでもないことを言い始める国会議員が出てきそうだ。

実際、私が今年1月に出した本のアマゾンの書評にも「政府債務の増加は重大な警告だが、民間の金融資産も同時に膨れ上がっている。民間金融資産により政府債務が、安定的にファイナンス(資金繰り)されていれば破綻の心配がないのでは」という内容の指摘もあった。