「日本の4.8倍」"大金持ち"の米国が財政悪化を懸念するワケ

国内総生産(GDP)が2倍になれば、国民の収入が2倍になり、国の収入も2倍になるのが普通だ。国民の収入が増えずに税収が3倍になっていれば、成長の果実を国が皆、もっていってしまったと国民は怒るだろう。

要は税収とGDPはほぼ比例するのだ。GDPの大きい国の方が税収が多いことからもそれは想像に難くない。要は「対GDP比の借金額」とは税金で借金を返せる難易度ランキングである。

ここで米国の事例を考えてもらいたい。米国の借金の対GDP比は140%弱で、日本の260%超えより低い。日本に比べて、税金で借金を返すのがはるかに楽だということだ。

しかしながら米国では、財政に対する危機感が日本よりはるかに強く、バイデン大統領はコロナ禍に対する財政出動に対し、増税案という財源を明確にしている。そして彼らは、財政の持続性を議論するとき、個人金融資産の額など話題にすらしない。

3月末の米国の家計(非営利団体を含む)の金融資産は109兆ドル(約1京2000兆円)(2021年6月11日日経新聞)。2021年9月の債務残高は22兆5000億ドルだから、米国の個人金融資産は政府債務残高の4.8倍もある。1.6倍の日本よりはるかに大きい。しかし、一国経済に余裕がある米国は、財政の持続性論議にこの個人金融資産を全く考慮しないのだ。

ニューヨークの道路
写真=iStock.com/peeterv
※写真はイメージです

日本円が無価値になる日銀リスク

中央銀行に通貨発行権がある以上、異次元緩和で国債を爆買いし、新しく刷ったお金で政府が必要なファイナンスをし続ければ財政破綻のリスクはまずない。しかし「紙幣をいくらでも刷れる」からといって、「信用ある紙幣をいくらでも刷れる」ことにはならない。

通貨の信用は、それを発行する中央銀行の信用にかかっているから、その財務内容は重要だ。私が金融マンだったころの中央銀行は、値動きの激しい資産を購入しないのが鉄則だった。保有資産の価格が下落し、評価損を出し、それが大きくなって債務超過になれば通貨の信用が失墜してしまうからだ。

したがって、昔の中央銀行は株など当然保有しないし、長期国債にも手を出さなかった。長期債は同じ幅の金利上昇でも短期債よりはるかに大きく値が下がってしまうからだ。

日銀は、他の中央銀行が決して(金融政策目的では)手を出さない株式にまで手を染め、長期債も段違いの規模で購入している。特に後者が問題で、長期債の爆買いの結果、日銀保有国債の平均利回りはついに令和2年度上期で0.199%と0.2%を割ってしまった。長期債に限ると0.227%にまで低下してしまったのだ。ゼロ%に近い超低金利の長期国債を爆買いしたからだ。