日本の個人金融資産はこの30年で1000兆円から1946兆円に増えた。この事実はどう受け止めるべきなのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「株高の影響でこの1年だけで130兆円増えた。しかし日本人は預貯金偏重で、株式投資に消極的だ。このままでは日本人は全員が平等に貧乏になる」という――。
コインを数える男性
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30年で倍増した個人マネー

日銀が6月25日発表した1~3月期の資金循環統計(速報)によると、個人金融資産が1946兆円と過去最高を記録した。1990年度に1000兆円だった個人金融資産が、30年間でほぼ2倍になった。このニュースは、発表前から日本経済新聞が6月12日と20日に大きく取り上げるなど、注目を集めた。

米国の個人金融資産は30年間で数倍にもなっているのを承知しているせいだろう、「2倍になった」と単純に喜んでいる記事ではない(筆者註:現在の個人金融資産は2016年と比べると日本は1.12倍、米国は1.41倍。5年でこれだけ違うのだから30年間では大きな差が出るのは当たり前)

増えたのは預貯金だけ…

日経新聞の2つの記事では、増えた金融資産が株式投資ではなく、預貯金にまわり、個人がリスクマネーの供給者になっていないことを嘆いている。

たしかに株式投資というリスクマネーが存在しなければ、産業の新陳代謝は進まない。日本に新しい産業が興らず、今でも石炭産業と繊維産業の国だったならば1億2500万人の人々は食べてはいけないだろう。

銀行は預金者から元本保証のお金を預かり、安全確実に運用するのが主たる仕事であり、ベンチャーを育てるのが本来の仕事ではない。危ないところに融資をすれば金融庁・日銀、マスコミにたたかれる。

ベンチャーを育て、産業の新陳代謝を促すには「損したら、しょうがない。しかし儲かったら分け前をちょうだいね」というリスクマネーの存在が不可欠だ。そのため政府が「貯蓄から投資へ」と掛け声をかけてきたのだ。

脱線するが、株式のキャピタルゲインや配当金が20%の源泉課税であることを「金持ち優遇だ」と非難する人がいるが、以上の点も考慮しなくてはならない。株式投資によるリスクマネーが増えず、産業の新陳代謝が進まなければ、日本人は「全員が平等に貧乏」となってしまう。