女性にも経営手腕が優れている方がいらっしゃるが、個人的な経験から言って、先代の妻がいきなり経営の最前線に出て、ひとりで采配を振るのはあまり見たことがない。年齢的な課題もあるうえに、なにより経営に本格的に関与したことがないため、「いざ社長を」と言われても、対応に苦慮してしまうだろう。

オーナー企業においては、社長の妻が会社の経理を担当していることが珍しくない。社長としては、「もっとも信用できる人物に会社のカネを管理させよう」という判断からであろう。こういった判断こそ、事業承継におけるトラブルの原因になる。

カネの管理を長期間一人に任せてはいけない

長年にわたり経理を同じ人が担当していると、いつのまにか「カネの管理が特定の人にしかできない」という事態になる。しかも長年にわたり担当しているため、他の業務をすることができなくなり、「誰かに教える」ということにも消極的になってきてしまう。自分の存在意義を失いかねないからだ。結果として、「その人にしかできない経理」ということになって、実質的に会社のカネの動きを掌握することになる。

中小企業でバックオフィスのIT化が進行しない大きな理由が、ここにある。IT化を推進するには、現在の業務内容をまず棚卸しして確認する作業が必要である。担当者は、IT化によって自分の仕事が失われることを恐れるあまり、既存のシステムに固執して、新たな仕組みを導入することを断固拒否する。こういった傾向は、経理を妻が担当していたら、なおさら強い。妻として夫である社長に気兼ねせず、物を言うことができるからだ。

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妻は「早く自分の業務を誰かに引き継ぎたい」と口ではこぼしつつ、自分の存在意義が否定されないよう、周囲の人材をなかなか育てていかない。後継者は、母親の代わりに自分の妻に経理を担当させたい。そこで、子育てをしながら、妻には経理担当者としてまずは会社に関わってもらうことがある。

このとき、ちょっとしたことで、母親と妻の間に感情的な対立ができてしまうことがある。後継者は、母親と妻の板挟みになってしまい、対応に悩む。こういうときは、無理に仕事を引き継ぎさせようとすると、たいていうまくいかない。いったん、後継者の妻に仕事から離れてもらうことが多い。

母親は「家計簿」感覚で会社の経理をみてしまう

ある会社では、後継者の妻が夫の曖昧な態度に激高し、夫婦関係の修復に相当の時間を要してしまった。妻としては、単に義母と性格が合わないだけでなく、夫である後継者が自分を守らなかったことが不信感になったようだ。人間は難しい。

他にも、先代の妻が会社のカネを管理しすぎてしまうことによる弊害もある。あるサービス会社では、先代が亡くなり、長男が社長になった。先代の妻は、会長として残っていた。問題は、先代の妻が会社の印鑑と通帳をすべて自分で保管し、後継者に渡さなかったことだ。