当事者としては、「納得できないことがあっても、本音で話し合えばわかり合える」と錯覚している。しかし、家族だからといって、本音で話せばわかり合えるものではない。むしろ普段の暮らしで本音をぶつけられることがないため、面と向かって言われると、カチンとくる。言われた側も、感情的になって本音を繰りだすことになる。こういった感情的な対立になってしまうと、話し合うほど亀裂が拡大する。

何かを解決するための対話が、いつのまにか相手を屈させるための対立になってしまう。いったん生じた亀裂を事後的に修復することはかなり難しい。

相手の胸倉をつかむ男性
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②兄弟という立場にあるため、「会社内における地位が社長と同等である」という誤解

企業の組織論として、いろいろなものが提唱されている。組織の組み立て方に「唯一絶対の正解」といったものはない。それぞれの会社の規模、ビジネスモデル、あるいは文化によって異なる。それでもオーナー企業においては、やはり社長を頂点にした組織を基本にするべきだ。指示系統が一本だからこそ、社員としても自分が従うべき指示がわかる。

それにもかかわらず、兄弟が社長に対して対等な立場で意見を言ってしまうと、実質的に指示系統が複数発生してしまうことになる。これでは社員としても、いかに動けばいいかわからず、困惑する。

しかも、後継者でない親族が一部の社員を取り込んで、派閥のようなものを形成してしまうことがある。こうなると社員も分裂してしまい、ギスギスした人間関係が社内に広がってしまう。あるメーカーでは、社長の弟があらぬ噂を広めた挙句に、一部の社員を引き連れて独立してしまった。

③世間体

「世間からの視線」は目に見えないものではあるが、一度意識すると、気になって仕方なくなるものだ。ときに人を狂わせる。

「いつまで働いても、専務のまま」「社長の子ではなく、自分の子に継がせたい」という感情がどこかで生まれるのは、むしろ自然なことだ。「自分は死ぬまで兄に尽くす」という人は、滅多にいない。

逆に言えば、社長になった者は、こういった「兄弟の内心への配慮がきちんとできているか」を自問していただきたい。「弟はいつも支えてくれる」と甘えるばかりでは、足をすくわれることになりかねない。

家族間の感情的な対立は法律論で修復できない

ある会社では、先代が早くに亡くなり、兄弟が支え合いながら事業を展開していた。当初はうまくいっていたふたりであるが、事業が安定してくると次第に隙間風が吹くようになってしまった。対外的な危機がなくなると、社内政治に意識が向いてしまう。

弟は、会社における立場について、妻からいろいろ意見を言われるようになったようだ。すなわち、いつまでも周囲から「いい人」とだけ評価されるのでいいのかと。結果として、兄弟関係は感情的な対立に発展し、弟は不本意ながら会社から出ていくことになってしまった。