既存顧客を巻き込み応援団に

また、『この世界の片隅に』は、テーマである「戦時下の広島での日々の暮らし」と真摯に向き合っていたのも重要なポイントだったと考えます。舞台となる広島の町並みなどを精巧に描画しようと、現地視察が繰り返され、作品当時の世界のあらゆる細部を知るため、スタッフルームにはたくさんの資料も集められました。

その徹底したこだわりが、舞台となった広島の地で暮らす人々の心もつかみました。映画で主人公たちが暮らす呉市ではスクリーンに描かれたスポットを訪れる「聖地巡礼」が流行し、街の活性にもつながったといいます。

『この世界の片隅に』プロジェクトが教えてくれるのは、何かを始めようとするとき、すでに関係のあるファン=既存顧客がいるケースでは、彼らをいかに巻き込んで、“初速の勢い”を生む着火剤とするかを考えることの大切さです。新規顧客ばかりに気を取られずに、既存顧客をうまく巻き込み、自分事化してもらい、応援団として一緒に盛り上げてもらう。

インターネットやSNSというツールが増えてきた中で、その取り組みやすさは格段に上がりました。実は、そういったサポーターとの向き合い方に実直に取り組んだのが、『この世界の片隅に』プロジェクトだったのだと思います。

オーディオマニアの声優が開発に参加

もう一つ、サポーターを巻き込むことによって驚異的な記録を作ったのが、ワイヤレスイヤホン「KPro01(ケープロゼロワン)」の開発プロジェクトです。このイヤホンは、音楽を聞くときには無線接続、ゲームを楽しむときには遅延が起きない有線接続といったように、シーンによって接続方式を変更できる画期的な商品です。

製造は国内有数のデジタルアクセサリーメーカーであるオウルテックが担当し、品質面は担保されています。ただ、このプロジェクトは、商品企画者である安藤省吾さんと一緒に、共同商品企画者としてコラボレーションした、声優の小岩井ことりさんの存在を抜きにして語ることはできません。

小岩井さんは声優だけではなく、作詞家・作曲家としても活動。コンピュータを活用した音楽制作の技能を問うMIDI検定1級も取得しています。この1級はプロレベルの力量を持つことの証として、合格率5割を切る難度といわれます。その兼ね合いもあり、デジタル環境での音楽制作やオーディオ機材へ深い造詣を持ち、専門メディアでの連載を担当するまでに。声優としてだけでなく、一人のオーディオマニアとしても、知る人ぞ知る存在でした。

「KPro01」の開発プロジェクトは、メーカーが小岩井さんのオーディオマニアとしての側面からコラボレーションを持ちかけると、小岩井さんから「開発者として携わりたい」と逆オファーを受けるような形で、共にゼロからの商品企画がスタートしたといいます。

Makuake式「売れる」の新法則』(日本経済新聞出版)より