未接種だからと人権が取り上げられていいのか

ところが、現在の議論では、ほとんど全ての政党が、「ワクチン接種者は、感染を広める可能性が非常に低いから、基本的人権を制限する理由はないに等しい。だから、それらを再び返還すべきである」という論調だ。

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これは、一見、筋が通っているように聞こえるが、裏返せば、「感染を広める可能性のある人間から基本的人権を取り上げるのは当然」ということになる。そして、それを返してもらうためには、ワクチン接種という条件がつけられたわけだ。

さて、こうなると論点は、ワクチン接種という条件付けが、基本的人権を制限してまでも行われなければならないほど、現在のドイツ国内の新型コロナウイルス感染症の状況が深刻であるかどうかということになる。

例えばエボラ出血熱のように、ものすごい感染力で、さらに、感染したら最後、死に至る可能性のかなり高い疫病が蔓延しているというなら、そのケースに当たると言える。しかし、目下のところ、ドイツの罹患者の数は、日本よりは多いかもしれないが、それほど深刻とは言えない。

しかも、ドイツでは現在、1万5000カ所以上のコロナテストセンターが設けられており、誰でも無料で検査を受けられる。また、職場でも週に1~2回の検査が義務であるし、対面授業を行っている学校では、週に2回、全生徒と教職員が教室で授業前にコロナテストを行っている。

つまり、毎日、100万件から200万件もの検査が行われていて、この数字なのだ。

ワクチンを打たないのは反社会的?

政府は、夏休みには12歳以上の子供へのワクチン接種を開始するというが、新学期が始まった時、接種していない子供がどうなるのかはまだ分からない。あるいは、ドイツ人は旅行が好きなので、夏の家族旅行を実現するために、多くの人が12歳以上の子供たちにも接種を受けさせるかもしれない。

ワクチン接種に関しては、ドイツ国民の意見はすでに真っ二つに分かれている。

一つは、接種を待ち望んでいる人たち、あるいは、待ちに待った接種が終わって幸せいっぱいの人たちだ。しかも、彼らの間では、ファイザー/ビオンテック製(ドイツではこれが最高品質と言われている)を接種した人たちが、アストラゼネカ製のワクチンを受けた人に対して知らず知らずのうちに上から目線になっているというワクチン・ヒエラルキーまで見受けられる。

いずれにせよ彼らは、ワクチン接種を拒否する心理など、絶対に理解できない。彼らにとって接種は、自分の免疫力向上のためであり、同時に集団免疫を完成するための国民全員の義務なのである。

それどころか、ワクチン接種を躊躇する者は、他の人を感染させることを意に介さない反社会的な人物であると弾劾するような雰囲気さえ出来上がりつつあるように感じる。