問題だらけの「学び・稼ぐプログラム」
世に知られることもなく、日本で亡くなった留学生も少なくない。その1人が、1年半以上も昏睡状態を続けた揚げ句、2020年4月に息を引き取ったブータン人留学生のソナム・タマンさん(享年28)である。
ソナムさんも、名古屋入管で亡くなったスリランカ人女性と同じ2017年、日本語学校の留学生として来日した。ブータン政府が主導して進めた日本への留学制度「学び・稼ぐプログラム」(The Learn and Earn Program)の一員としてのことだ。
ブータンといえば、日本では「幸せの国」として知られるが、若者の失業が社会問題となっている。観光以外に目立った産業がなく、ホワイトカラーの仕事は公務員くらいしかないからだ。
そこでブータン政府は、失業対策として「学び・稼ぐプログラム」を始めた。
「幸せの国・ブータン」にも悲劇が拡大
政府と連携し、プログラムの応募者を募っていた現地の斡旋業者は、こんな言葉で若者たちを勧誘していた。
「日本へ行けば、ブータンでは考えられないほどの大金が稼げる。留学生には週28時間までしか働けないという法律はあるが、違反して働くことは難しくない」
ブータンに先駆け、出稼ぎ目的の留学生を万単位で日本へ送り出していたベトナムやネパールの斡旋業者をまねた勧誘方法だ。プログラムの名称は「学び・稼ぐ」だが、明らかに「稼ぐ」が強調されている。業者はこうも述べていた。
「ブータンで大学を卒業した人であれば、日本語学校を修了すれば日本で大学院にも進学できる。進学せずに就職したければ、日本のエージェントが仕事を斡旋してくれる」
そして、日本語学校に在学中はアルバイトで年に約180万円、就職すれば約480万円が稼げるといった話もしていた。ブータンの賃金水準は、エリートの若手公務員で月3万円ほどにすぎない。ブータン人がプログラムに殺到したのも当然だ。
プログラムは2017年から18年にかけ実施されたが、人口わずか80万人弱のブータンから、700人以上の若者が日本へと渡っていくことになった。