※本稿は、小澤竹俊『もしあと1年で人生が終わるとしたら?』(アスコム)の一部を再編集したものです。
医者になって確信した「本当の幸せ」
私は子どものころ、「医者にだけはなりたくない」と思っていました。人に注射針を刺すことに抵抗があったし、看護師の資格を持ち、私を医者にさせたがっていた母への反抗心もあったかもしれません。
そんな私の気持ちが変わるきっかけの一つとなったのは、高校生になり、「幸せとは何か」について真剣に考え始めたことでした。
さまざまな本を読み、自分なりに「どうしたら、人は幸せに生きられるのか」と思いを巡らせ、「お金を手に入れたり、有名になったりすることによって、自分一人が幸せになるという『一人称の幸せ』には限界があるのではないか」「自分がいることによって誰かが喜んでくれたときに、本当に幸せになれるのではないか」との結論に至ったのです。
そのうえで、どのような仕事なら、本当の意味で幸せに生きられるのかをさらに考え、導き出した答えは、「人の命に関わることができれば、最も大きな喜びを得られるのではないか」というものでした。
そして私は、高校2年生の秋から、注射への抵抗感も母への反抗心も捨て、医師になるための勉強を必死で始めたのです。
あれから40年ほどの月日がたちますが、高校生のときに導き出した「本当の幸せとは何か」という問いに対する答えは、間違いではありませんでした。私は今も、「一人称の幸せには限界がある」という思いを持ち続けています。
肺がんを患った50代男性の変化
これまで出会った患者さんの中にも、「一人称の幸せ」を卒業することで、本当の幸せや心の穏やかさを手に入れた方はたくさんいます。
たとえば、ある50代の男性。彼は高校を卒業してすぐ銀行に入社し、一生懸命に働きました。「銀行の利益を最優先し、お金を返せそうにない人には融資をしない」など、かなり厳しい仕事ぶりではありましたが、仕事の成績は常に優秀で、大学卒の同期よりも早く支店長になり、収入も増えたそうです。