それに加えて、台湾の社会はまだ「若い民主主義」であるため、人々は政治に無関心ではいられない。中国が「台湾を併呑する」といつも脅しをかけているものだから、危機意識も強い。

さらにオードリーが「デジタル民主主義」を掲げ、ネット上のプラットフォームを整備して誰もが政治的な意見を表明したり、政府に要望を伝えたりすることを促進しているため、ますます政治参加の意識が高まり、デジタル行政も活発化しているわけだ。

「政府も国民も同じ方向を向いている」

日本のデジタル革命は、デジタル庁発足を控え、ますます本格化することになるが、オードリーの言葉は大きな示唆に富んでいる。

「デジタル行政は、決して私たちの方向性を変えるわけではありません。政府も国民も同じ方向を向いていることを忘れてはなりません」

行政のデジタル化が進むのは、歓迎すべきことだろう。現状では、民意を表現できるのは18歳以上で日本国籍を持ち、その地域の選挙権を持つ人だけであり、そうした人たちの民意を汲み取れるのは、地域の国会議員や地方議員だけだった。

しかし、デジタル技術を利用すればどうなるか。日本に住んでいるかどうか、18歳以上か以下か、はたまた日本人か否かに限らず、あらゆる人がいつでもどこでも、政府の問題点や社会の課題についての意見やすぐれたアイデアを社会に提案し、政府の政策に反映させることができるようになる。もちろん、提案された意見に反論することも自由だ。

つまり、選挙の日程を待つことなく、常に立場の異なる人々と異なる価値観を共有することができるようになるということだ。これが日本のデジタル革命で台湾に学ぶべき最大のポイントだろう。

政府と国民のあいだの信頼関係

「政府も国民も同じ方向を向いている」というオードリーの言葉は、政府と国民のあいだに信頼があるからにほかならない。

たとえば、2021年1月、台北国際空港という空の玄関を抱える桃園市の病院で、医師の新型コロナウイルス感染が確認された。そのため、接触履歴のある5000人あまりの隔離、あるいは追跡調査が行われた。

それまで1年近く、国内で複数の感染者が出たことはなかったため、台湾社会に緊張が走る。桃園市政府は職員の市外への出張を原則禁止、人が集まるイベントはすべて中止とした。ただし、桃園には、在来線で30分あまりで行ける台北に通勤や通学する人も多い。

そのため、台北市でも大型イベントが相次いで中止や延期に追い込まれたのだ。

感染者との接触が確認されれば、当然隔離の対象となり、人が集まる場所に出かけたりイベントに参加したりすることが制限される。海外から帰国した場合、2週間の隔離が義務づけられている。しかも、隔離場所であるホテルの部屋から8秒間、廊下に出ただけで罰金を科された例もあったように、その運用は極めて厳格だ。