妻に味方し、夫には厄介な存在となる婚姻費用

熟年離婚では、婚姻費用の存在も大きいです。婚姻費用とは、通常の社会生活を維持するために必要な費用のこと。生活費だけでなく、居住費、学費までも含まれます。熟年離婚の場合、子育てが終わっていることから妻に別居される可能性が高く、となると離婚協議中の妻の居住費も夫は負担しないといけなくなります。

民法760条で、婚姻費用について次のように定めています。「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」。婚姻費用をはじき出す計算式は裁判所にあり、支払額が自動的に決まります。

しかも、仮に離婚協議が3年かかったとしても、その間も婚姻費用は払い続けなくてはいけません。離婚が成立すれば夫の財産は半分となり、プラス弁護士費用も加わると、定年退職以降は一気に生活費の計画は狂うことに。

妻側は、今まで何十年と続いてきた我慢が、弁護士とのタッグと民法の規定によって救われることができます。「法律は知っている人の味方になる」ということをお互い覚えておく必要があるのです。

男性だけでなく女性も、ジリ貧生活が待ち構えている

男性の立場から見ていきます。

子育ても家事も、ほとんど妻に任せっきりにしていた男性が大半でしょう。ビジネスマンとしての段取りや立ち振る舞いだけは一流だったかもしれませんが、一歩台所に入りお茶を入れることにも右往左往するようでは、日常生活すらおぼつかなくなります。

外出が減り、栄養を十分に摂らず、社会的に孤立することによって、老化を早め、精神的なうつを引き起こす可能性も。

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女性のほうはどうでしょうか。

離婚で資産も年金も半分もらえるからと安心してはいけません。年金がもらえるといっても、その額はわずかです。

住居はどうでしょうか。別れた夫が、家にタダで住まわせてくれることはありません。そんな優しい夫であれば、そもそも離婚もしていないはずですから。一緒に暮らしてきた自宅を売却し、税金を払い、そして半分にして、手元に残った資金2000万円が手に入ったとしましょう。

この資金で部屋を借りた場合、家賃10万円×12カ月×20年だとすると、計2400万円。60歳で離婚したとすると、80歳の頃には資金がショートして、賃貸で住めなくなります。女性は二人に一人が90歳まで生きる時代なので、この先もまだまだあります。

なおこの話は、男性にも同じことがいえます。お互いの実家に住めるかどうか、実家を相続できるかどうかでまた状況も変わります。