ちなみに香港の不動産企業の管理職によると、2019年、香港の大手不動産仲介業者が取り扱った中古住宅の最高価格は、実に12億香港ドル(約168億円、1000平米の物件)だったという。東京でさえも聞かないとんでもない金額だが、「こうした巨額投資のほとんどが大陸からのものだ」(同)という。

前出の中国人実業家は、「不動産物件が高額になればなるほど、中国人にとって中国内地の資金を持ち出すのに好都合だ」という。香港ではこうした一国二制度の差を悪用したロンダリングや錬金行為が日常的に行われているのだ。まさしく、香港の闇の部分である。

香港の人間が家を買えない

“竹林のようにそびえる高層住宅”が香港の象徴であるように、香港の土地は有限だ。わずか1100万平方キロメートルと札幌市と変わらぬ面積に730万人超の人口がひしめく。香港は世界でも指折りの“住宅難都市”である。

過去20年の統計を見ると、香港で地価の高騰は2003年を底に急上昇を始めたことがわかる。2018年の住宅価格は2003年からの15年間で4倍に高騰した。「バブルだ、バブルだ」と騒がれた上海の住宅価格は2010年に東京の水準を超えたが、香港は上海の倍の水準である。日本では「住宅は世帯年収の5倍が適正価格」といわれているが、香港の平均住宅価格はもはや世帯収入の14倍だといわれている。

香港ではここ数年、一般市民向けの住宅が投資の対象になっている。住宅ローンの利率が大陸よりも低いことから、大陸の中間層が香港で住宅を求めるケースが増えたのだ。また、大陸では住宅の購入規制が導入され、自己居住以外の物件(賃貸事業用不動産)が取得しづらくなっている点がある。近年は、大陸の住宅価格が香港並みに上昇したため、香港の住宅は相対的に安く手に入れることができるようになった。

香港でこのように急激に住宅価格が上昇したのは、大陸からのチャイナマネー流入による高騰にほかならず、結果として、香港の住宅バブルは香港社会に深い断絶をもたらした。すでに持ち家に居住している人は資産価値が「億円単位」に跳ね上がるというバブルの恩恵に浴したが、これから住宅購入を検討しようという人にとっては絶望しか残されていない。若い学生たちがデモに参加して激しい怒りをぶちまけたのは、このような住宅事情にも由来する。