漫画制作の進め方に「こだわり」がない

また、これも人から指摘されて気づいたのだが、漫画制作の進め方について「こだわり」がないのも特徴的なようだ。

例えば今回のコロナが訪れたとき、私はかなり早い段階から、チーム全体をリモート勤務に切り替えた。

以前なら職場にアシスタントがやって来て、寄せ合わせたデスクに向かって漫画を描いていくのが通常だった。企画の打ち合わせも当然のごとく皆で一室に集まってしていたのだが、それらをすぐにやめて、フルリモートにした。

現在は漫画制作の現場もかなりデジタル化が進んでいるから、切り替えはやろうと思えば技術的に可能なのだ。

私としては、最優先課題は何かを考え、当たり前のことを当たり前にやっただけである。

我々にとって一番のリスクは何か? 新型コロナに感染してしまい、作品を世に出すことができなくなることだ。では、感染のリスクを極力抑えるにはどうするか。人と接触しないこと。仕事場に集まるということ自体がリスクなのだから、ここはリモートにするしかない。シンプルな結論である。

大切なのは、目的をはっきりさせることだろう。何が最優先で、大切なことなのか。見極めれば、おのずとやるべきことは定まる。

『ドラゴン桜2』の作画は外注…

そうした考えを突き詰めた結果でもあるが、私はドラゴン桜2』では、作画を外注することにした。

漫画家が絵を描くのを外部に発注するなんて! と驚かれたりもするが、私からすればさほどのことではない。

漫画を生み出すために私がするべきことの核は何か。よくよく考えてみれば、それはネームづくりである。ストーリーを考え、場面を設定し、人物の行動や感情の流れを決めてコマ割りをしていく。それを指定し、紙面に落とし込んだものが、ネームと呼ばれるもの。これをつくることこそ、漫画家としての私の最優先課題であると気づいた。

ならば絵を仕上げるという作業は、外部の作画チームに投げてもいいと判断した。もちろんそのシステムをスタートさせるにあたっては、入念な打ち合わせと指導を積み重ねたうえではあるが。

どんな仕事であれ人の手にゆだねるとなれば、100パーセント満足する結果を得るのはなかなか難しい。作画に対しても、100パーセント満足かといわれれば、そうでない部分もある。だがそれでいい。もちろん作品として世に出せるだけの一定の水準はクリアしているのだ。ならばまずは市場に投入して、反響を見ながらブラッシュアップさせていけばいいのである。

こうした方法が漫画家としてどれほど異色なのかはよくわからないが、私はひとりの仕事をする人間として、どうしたらよりよく自分の仕事をまっとうできるだろうかということは、真剣に考え続けてきたつもりだ。