トラブル解決の秘訣は「徹底して言い分を聞く」こと
いくつかの小学校で教諭を務め、教育委員会で社会教育課長(PTA、家庭教育、青年活動を指導する)などを経験した後、教頭、校長と順調に管理職の階段を上っていった。
教頭時代は苦労が多かったというが、苦労の代表は保護者への対応だった。
「たとえば、学校で何かトラブルがあって保護者の方に来ていただくと、『私はわが子の言葉を信じます。だから、この子は悪くない』なんておっしゃる方がいるんですね」
子供の言葉の真偽を吟味することなく、一方的に「わが子が正しい」と主張をする。あるいは偶然に起きた事故の責任を、一方的に学校に押し付けてくる保護者もいた。こうした不条理に、磯野はどのように対応したのだろうか。
「徹底的に言い分を聞きました。あなたが間違っているなんて言うと喧嘩になってしまうから、おかしなことを言ってると思っても、ひたすら耳を傾ける。そうやって、自分から気づいてくれるのを待つしかないんです」
子供同士のトラブルからは、自分も真偽の判断を過ちかねないことを学んだ。
「○○さんに意地悪されましたなんて、よく子供が言いつけに来るでしょう。人間って不思議なもので、最初に言ってきた方の味方をしてしまうんです。ところが双方の話をよくよく聞いてみると、言いつけに来た子の方が先に手を出していたというケースが多いんですね。ですから問題解決には、徹底して話を聞くという姿勢がとても大切なんです」
相手が子供でも高齢者でも、仕事の喜びは変わらない
60歳で定年を迎えた磯野は浦安市立美浜南幼稚園(現:美浜南認定こども園)の園長に着任し、64歳のとき、一年の任期を残してアゼリーグループのなぎさ幼稚園に、やはり園長として転籍している。
「私は子供の頃から農作業をしていましたから、根性があると言いますか、疲れないんですね。教員の頃は徹夜仕事でも何でもやりましたよ。とにかく子供と一緒にいるのが楽しいんで、アゼリーの話を引き受けたんです」
ところが磯野は、1999年、アゼリー江戸川に施設長として異動するのである。子供に囲まれた世界から、程度の差こそあれ介護を必要とする高齢者に囲まれた世界への異動。理事長から請われてとは言うものの、意欲を殺がれそうな気がするが……。
「私は教育委員会時代に社会教育をやっていましたから、この施設に来ても違和感はまったくありませんでした。人間は何歳になっても自分というものを持っていて、高齢者だって、なんとか元気でいようという意欲を持っているんです。それを引き出してあげられた時には、子供の力を伸ばしてあげた時と同じ喜びがあるんですよ」