東急は渋谷、小田急は箱根、東武は日光、西武は所沢

再上場を果たした14年と現在を比べた株価は東京の大手私鉄が軒並み上昇傾向だが、西武は下回る。21年3月期の売上高は前期比40%減の3340億円、最終損益は800億円の赤字(前期は46億円の黒字)を見込むなど、厳しい。

西武HDについてはかねてから、「沿線価値が他の鉄道会社に比べて低い」「沿線に顔がない」と市場関係者から指摘されている。東急は渋谷や二子玉川といった有力なターミナル駅や田園都市線や東横線といった人気エリアをもつ。小田急電鉄は箱根、東武鉄道は日光という観光地を抱える。

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一方、西武HDは事態打開に向けて所沢駅で駅直結の商業モールをオープンさせ、大規模マンションも開発。20年代半ばまでに所沢駅の乗降客数を現在の3割増の約13万人にする計画で、沿線全体のバリューアップにつなげたい考えだ。

西武秩父駅では駅直結の温泉を開業。さらに埼玉西武ライオンズのメットライフドームを約180億円かけて「ボールパーク」に改装するなど、堤氏時代に後回しだった沿線開発に注力している。18年度の輸送人員は10年度比8%増だ。しかし、渋谷などで大規模開発を進め、今後も通勤需要が底堅い東急(同12%増)に及ばない。

鉄道・運輸とホテル・レジャー事業の両方が苦戦

西武HDトップの後藤氏は、上場廃止に陥った西武グループを復活させた立役者だが、今年で社長就任15年になる。出身母体のみずほ銀行の協力をあおぎながら同社を牽引してきたが、コロナという予期せぬ事態に立ちすくんでいる。06年の就任時は、不採算のホテル・レジャー施設のリストラに注力する実行力が問われた。サーベラスという大株主の後押しもあり、体質は引き締まった。

しかし今回は様子が異なる。前回の危機はホテル・レジャー事業で悪化した財務を、堅調な鉄道事業で埋め合わせられた。今回は、リモートワークの普及で鉄道・運輸事業も悪化している。日銭を稼げる安定した収益基盤だった鉄道・運輸と、固定費の塊であるホテル・レジャー事業、その両方が経営体力を奪うという過去にない事態だ。

特に西武HDはホテル・レジャー施設の資産規模が大きく、その収益性も劣るため、経営にのしかかる負のインパクトは運輸セクターの中で目立ってしまう。