生まれ育った国でよそ者扱いされるつらさ

大人になった利佳さんは、子供の頃のような嫌がらせを受けることはなくなったが、新たな偏見にさらされることになる。最もつらいのは初対面の相手に“Where are you from”(出身はどこですか?)と聞かれることだ。「ニュージャージー出身です」と答えると、相手は腑に落ちない顔をする。なぜなら彼らは、彼女の親または先祖がアジアから来たという言葉を聞きたいからだ。

これも私を含めアジア系だったら誰もが常に経験することで、言葉の裏には「あなたをまだアメリカ人として認めていないよ。あなたは私たちとは違う、あちら側の人間なんだよ」という感情、無意識の差別が見え隠れする。

存在を認めない、無視される差別は人格否定にもつながる。多くのアジア系が生まれた国でよそ者として扱われるトラウマを共有している。ニューヨークを拠点とするファッションデザイナーのジェイソン・ウーは、ミシェル・オバマ夫人のドレスをデザインしたほどの有名デザイナーだが、その彼が最近のインタビューで「この年になってようやくアジア系としての自分に自信が持てるようになった」と語っているほどだ。

しかしこうした差別やトラウマもこれまで大きな問題にならなかったのは、波風立てたくないアジア系が黙って耐え続けたからだ。

筆者撮影

優秀だと憎まれる「モデル・マイノリティー」

アジア系はいまだに、アメリカの全人口の6%に満たないマイノリティーだ。しかし移民として重労働にも愚痴を言わずに取り組む従順な彼らは、白人社会の下層にいるアフリカンアメリカンや、ヒスパニックと上層にいる白人との間でクッションのように置かれるようになる。

勤勉な彼らの多くは、24時間の食料品店、クリーニング店といった職業に就いたが、アフリカンアメリカンが多く居住する貧困エリアに店を開くと、お金を吸い上げるだけで地元に還元せず自分たちだけ豊かになっていると、時には嫉妬や怒りの対象にもなった。

母国の経済成長に伴い学歴も上がり豊かになった者も多く、モデル(お手本)・マイノリティーと呼ばれるようになる。しかしそれが「アジア系はアフリカンアメリカンやヒスパニックより優れている」という偏見を作り出し、マイノリティー間の分断と軋轢を生んだ。そのため、モデル・マイノリティーは人種間の連帯を恐れる白人社会が意図的に作り出した概念と強く批判されている。

いくらモデル・マイノリティーと呼ばれるようになっても、白人社会では「よそ者」として差別され続ける。それでも、問題を起こすことを嫌う彼らは黙り続けてきた。

それが一変したのがアトランタ銃撃だった。