こうしたアジア系アメリカ人への差別偏見は今に始まったことではない。筆者は今回、日系2世の女性に話を聞くことができた。彼らの体験を知れば、なぜ今アメリカでアジア系へのヘイトクライムがこれほど増えているのかが見えてくる。
「ジャップ」呼ばわり、生卵を投げつけられ…
雲井利佳さんは、アジア系女性として嫌がらせを受けてきた1人だ。昨年のパンデミック初期はマスクをして地下鉄に乗っていると、周りの乗客が避けるように席を変えたという。「あまりに露骨な行為にとても驚いたし、悲しかった」と振り返る。
そして今では、アトランタの銃撃事件以降眠れない夜が続いている。幼少の頃から差別を我慢して生きてきたが、事件をきっかけに怒りと悲しみが溢れ出した感じがする、周りにも同じようなアジア系が多いと話す。
ニューヨークの隣のニュージャージー州で、白人の中にアジア人が数人という環境で育った彼女の子供時代は、差別・偏見が日常茶飯事だった。常にジャップ、チンク、グークと差別用語を投げつけられ、歴史の時間に真珠湾攻撃、原爆を習えばそれをネタにいじめられたという。学校では先生に言っても相手にされず、耐えるしかなかった。
家には理由なく生卵が投げつけられ、黙って掃除する親の姿を見て悲しかった記憶がある。一時は「なぜアメリカなんかに来たんだ?」と親に怒りをぶつけたこともある。しかし大人になる頃には差別もなくなり、いじめられなくなるだろう、そう思って耐えた。
黒人とは違った「見下し、笑う」差別
アジア系であるということだけで受ける差別の歴史は、19世紀に起きた中国系移民、続いて日系移民に対する排斥運動にさかのぼる。アメリカ人の職を奪うという理由で激しい抵抗に遭い、暴力の犠牲になったり殺されたりしたアジア系移民も少なくない。
さらに日本やベトナムとの戦争もあり、アジア系は常に憎むべき敵というレッテルを貼られ続けることになる。1964年の公民権法で人種差別が違法になってもそれは変わらなかった。
アジア系に対しては、普段はフレンドリーに接していながら、何かのきっかけで職業差別や女性蔑視など、自分より劣っている者を見下し、笑い、または無視するといったカジュアルな差別が起こることが多い。それがじわじわとアメリカ社会の底流に流れ続けている。