またアジア系の場合、波風を立てるのを嫌う被害者が黙って泣き寝入りしたり、言葉が通じず理解されなかったりする場合も多く、警察自体の意識が低いことも原因だ。州によっては報告義務もないため、全米でいったいどれだけのヘイトクライムがあるのかを当局の数字として把握するのはまず不可能と言っていい。
かつてない規模で声が強まっている
「黙っていたらだめ」「声を上げなければ」というメッセージがハッシュタグ#StopAsianHateと共に全米を駆け巡り、沈黙していたアジア系がついに声を上げ始めた。
筆者も多くの抗議行動を取材しているが、アジア系による抗議でここまでの規模は史上初だろう。しかも若者を中心とした年齢層の広さに驚かされる。こうした抗議行動は週末を中心に全米に広がり、徐々にアジア系以外の白人、黒人の若者「アライ」が増えてきている様子も見られる。
アフリカンアメリカンやヒスパニックがそれまで黙って耐えてきた警察暴力に対し立ち上がったBLMの影響も大きく、白人至上主義という共通の敵と戦うには、連帯こそが不可欠だという考え方も高まっている。
雲井利佳さんは「『アライ』が味方でいてくれることがうれしいが、こうした抗議行動に参加した帰りに暴力を振るわれたアジア系女性もいて怖くて参加できない」と話す。その代わり、インスタグラムやクラブハウスなどのソーシャルメディアで積極的に発言し、活動団体への寄付を呼びかけている。
「何をされても黙っている」と思われているアジア人
バイデン政権は、アジア系へのヘイトクライムに強く抗議する声明を出し、各自治体でヘイトクライム法の整備や警察対応の向上などの対策も模索され始めてはいる。しかし、現在100人の上院議員のうちアジア系がわずか2人であることからも分かるように、政治の世界でのアジア系の存在感があまりに低いことも指摘されている。
アジア系へのヘイトクライムに端を発したこうした動きは始まったばかりだが、少なくとも「何をされても黙っている」というステレオタイプからアジア系アメリカ人は脱却を始めている。もう犠牲者にはならない、そう決心したアジア系は激動する人種社会の中で、重要なプレーヤーになろうとしている。