少数意見に耳を傾けようとしない安倍前首相

【池上】安倍政権も、その伝統を引き継いだ気がします。安倍さんは、しばしば「私は立法府の長ですから」と言い間違えていました。それは衆参両院議長の称号で、内閣総理大臣は「行政府の長」なのですが。そういうところにも、議会の多数派から選ばれているのだから、国会では黙って私の言うことを聞いてもらいたい、という気持ちが透けて見えたわけです。少数意見に耳を傾けるという発想は、安倍さんからはほとんど感じられませんでした。

アメリカのトランプ前大統領も典型的なポピュリストでしたが、とにかく口を極めて民主党を非難しましたよね。バイデン大統領が選挙後に、もちろん建前もあるけれど、今は共和党・民主党ではないんだ、私はユナイテッドされたアメリカの大統領なのだ、とオバマと同じような言い方をしていたのとは対照的です。安倍さんも、「政敵」に対する対応は、トランプに似ていました。

【佐藤】「悪夢のような民主党政権」とか(笑)。だから、日本維新の会とも波長が合ったのでしょう。ちなみに、維新はある意味誠実で、2020年11月に行われた大阪都構想の住民投票で負けたくらいで、代表の辞任とかいう話になってしまった。本人たちがどこまで意識しているか分かりませんが、あれはポピュリズムの裏返しと言っていいでしょう。

【池上】だから、49%の負けでも、潔く腹を切る(笑)。

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「分かりやすい敵」をつくる政治手法

【佐藤】橋下徹さんも、日本の政治をポピュリズムの方向に一歩、二歩と進めたという点で、非常に大きな歴史的意義を持つ政治家です。

【池上】橋下さんは、トランプ大統領が誕生した時に、「駐日米軍がいなくなったらどうするのかということを、私たちが真剣に考えるきっかけになるから」といった理由で、それを支持しました。自分に似たものを感じ取っていたのかもしれません。

【佐藤】でも、トランプ大統領が、本気で在日米軍の引き揚げを考えているとでも思ったのでしょうか。そうだとすると、「炎上商法」に乗っかってしまったことになるのですが。

【池上】その政治手法も一貫していました。例えば、大阪の子どもたちの学力が低いのは学校の先生のせいだ、教育委員会が悪いのだ、と分かりやすい敵をつくる。実はその背後には、全国と比較しても深刻な貧困の問題があるのに、あえてそこには目を向けないのです。バッシングして部分的な前進があれば、それは「改革の成果」になるでしょう。