ANAとJALの危機的な状況の中で両社の統合論も浮上した。しかし、これは愚策だ。たとえ両社の事業規模が半減したとしても、政府や金融機関が個別に救済し、切磋琢磨してともにい上がるべきだ。なぜなら統合した場合にはシステム、機材、整備、人材教育などすべてを平準化せねばならず、組織再編にはもう1社エアラインを作るほどの費用が必要となるからだ。

エアラインで一番コストのかかるのは航空機材だ。ANA、JALともに最大機数を保有する米ボーイング787のシリーズを例にとって説明する。両社ともに機体は同じでもエンジンが違う。ANAは74機にロールスロイスのエンジンを搭載しており、JALは46機にGE社製を使う。エンジンメーカーが違うということは、部品も全く違い、別の航空機と言っていいほどである。統合して混在することになれば、部品を2倍持たなくてはならなくなる。

経済的な視点で無駄が多くなるだけでなく、マニュアルの違いからくる乗務員の動作や手順の違いから矛盾が生じ、安全面を毀損きそんする可能性は大きい。

JALとJASの統合が招いた経営破綻

大が小を飲み込む合併であれば大側が主導を取れば済む話であるが、ANAとJALでは2019年度の売り上げでANAが14%高いだけの差しかない。この両社の統合となると軋轢あつれきが大きくなるのは目に見えている。

過去の事例を振り返るならば、JALと統合したJAS日本エアシステムの事例がふさわしい。統合前年となる2001年度の両社の売り上げはJALで1兆6000億に対しJASは4200億でしかない。JALはJASの4倍の売り上げがあり、それだけの規模の差があっても大不協和音が続き、その後、JALの破綻へと進んだきっかけの一つともなった。

筆者撮影
JAS日本エアシステムのボーイング777-200型機

両社統合の合理性はどこにも見付からない。ANAの業績を伸ばした国際線が、今のANAを苦しめている。しかし、時間とともに築き上げられた思想や価値観を共有した社員がいる。それはコロナ収束後、ANA大復活の何よりの起爆剤になるだろう。

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