謝罪騒動で最もダメージを受けたのはだれか

謝罪によってダメージを受けたのは、メルケルではなく、実は、深夜の会議に参加していた16人の州首相だ。つまり、メルケル首相は1人で責任を被って謝罪し、潔い印象を残したが、州首相たちのメンツは丸潰れになった。しかも、これらは元々、メルケル首相が強引に押し通したことだったというから、彼らの不満は想像に難くない。

ヘッセン州のボイフィエ州首相(CDU)は、「これは、われわれが決めたことが間違っていたという証明。全員間抜けとは非常に気分が悪い」といら立ちを隠さなかった。

折しも今年は9月の全国総選挙と、多くの州議会選挙が重なるスーパー選挙イヤー。このままでは与野党が入れ替わる可能性もあり、CDUの政治家にとっては、すでに危機状態と言える。

3月のドイツ南部の2州、バーデン=ヴュルテンベルクとラインラント=プファルツの州議会選挙では、すでにCDUが大敗しており、4月は中部ドイツのチューリンゲン州、6月にはザクセン=アンハルト州、9月にはベルリン、メクレンブルク=フォアポメルン州、そして前述の通り総選挙と続く。しかも、唯一人気の落ちないメルケル首相は今期で政界から完全に引退すると言っており、CDU/CSU(キリスト教社会同盟)会派はいまだに、誰を首相候補として戦うかさえ決まっていない。

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1年前から国民はソーシャルディスタンスもとっていた

“ポストメルケル”を決める総選挙の行方

そして、CDUに鼻の差で迫っているのが、環境政党と言われる緑の党だ。近年、CO2削減を前面に打ち出たことで躍進し、25日の世論調査では、支持率は23%に跳ね上がった。このままいけば、総選挙後、現在のCDU/CSU会派と、得票率が10%を切るとも言われるSPDの連立は、もはや維持できない。

その代わりに、緑の党がSPD、FDP(自民党)と連立を組めば、左派リベラル連合が成立する。それどころか、緑の党とCDUが連立するというオプションさえある。そして、どちらに転んでも、緑の党が首相を出す可能性が高い。緑の党とCDUの連立の可能性など、10年前のドイツでは誰も想像しなかったことだろう。

すでにかなり以前から、メルケル首相の1番の希望は緑の党との連立であるという不思議な話が公然の秘密のように語られていた。実際、今になって、16年のメルケル政権の遺産が、CDUの没落と緑の党の台頭となる可能性は高くなってきた。

今、ドイツは問題が山積みだ。ワクチン接種は進まず、補助金の給付は滞り、困窮している人たちも確実に増え、ドイツの防疫対策は失敗したという不名誉な評価がEU内に広がり始めている。そんな暗闇の中で1人異彩を放つメルケル首相だが、その腹の底は今も見えない。

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