国会が感染症対策を政府に一任してしまっている

そもそもドイツは連邦制なので、首相には仏大統領のような大きな権限はないし、感染症対策は州の管轄だ。2020年春のロックダウン時は緊急ということもあり、全土統一の対策が望まれたので、従来の「感染症防止法」を加工して保健相に権限を持たせ、法的辻褄を合わせた。ところが、11月に再度ロックダウンが実施された時には、政治家からも国民からも、そして法律家からも異議が出た。理由は基本的人権の侵害、および三権分立の侵食である。

ドイツで基本的人権の侵害が例外的に許されるのは、それが何らかの合法的な目的を達成するためにどうしても必要であり、かつ、その効果が明確な場合に限られる。しかし、ロックダウンは、職業の自由や集会の自由、自宅での私的会合までが制限されたにもかかわらず、防疫効果との相関性は極めて曖昧だった。つまり、ロックダウンは違憲であるという声が高くなった。

ところがメルケル首相はひるまず、11月16日、またもや州首相を集め、ロックダウンのさらなる強化を求めた。不思議なのはこの後だ。2日後、政府は「全国規模の感染症流行時における国民防御法」の一部改正法案を提出し、それが、その日のうちに下院、上院を通過した。しかも深夜に大統領の署名を得て、翌日施行された。

これにより、国民主権の象徴である国会は政府に感染防止の対策を一任し、政府が決めたことが基本的人権を制限しても、それは合法となった。そして、以後、何度も国会の頭越しでロックダウンは延長された。つまりドイツでは、その11月3日からのロックダウンが今も続いている。

筆者提供
人気のない街並みの様子

批判的だった大手メディアも手のひら返し

さて、メルケル首相の謝罪の翌日、世論調査では、そうでなくても低迷していた与党CDUの支持率が7ポイント減で28%にまで下落した。もちろん結党以来の最低記録だ。ただ、CDUの支持率は下がったが、メルケル首相の人気だけはそれほど落ちない。

国民の間では、コロナをめぐる国民の意見は真っ二つに割れている。これまでは、規制が強すぎると感じている人と緩すぎると感じている人の数が拮抗きっこうしていたが、今回の謝罪事件のあと、規制をもっと強くすべきだという意見が4割に迫った。

これは、メルケル首相が国民の安寧を願って厳しい制限を講じようとしたのに、それを妨害されたと考えた人が多かったからだろう。

一時はメルケルの終焉のように書いた大手メディアもすぐに態度を翻し、「メルケルは自らの失敗といかに力強く対峙したか」などという肯定的な書き方に変わってきた。それどころか、イースター後に感染が増えれば、世論は「やっぱりメルケルの言う通りにしておけばよかった」に急変する可能性もある。