「ストックの顧客」を持っているビジネスが強い

より重要なのは、「顧客を持っていた」ということだ。フローのお客ではなくストックの顧客を持っていたことなのである。

フローとストックとは、一般的には経済学、あるいは会計学の用語である。フローとは「流れ」を意味し、一定期間内に流れていくもの。会計で言えば売上や費用などを指す。一方、ストックとは「貯蓄されたもの」であり、会社が持つ設備などの資産を指す。

これをマーケティングの世界に置き換えると、「フロー=一見いちげん客」「ストック=常連客」ということになる。

もちろん、どちらも大事である。一見客がいなければ常連客も生まれないという意味では、すべてのビジネスはフローから始まる、とも言える。ただ、コロナショックの影響を受けなかったのは明らかに、ストックされた顧客を保持している「ストック型のビジネス」を行っていた企業や店舗であったのだ。

そして、さらに願わくば作ってほしいものがある。「顧客リスト」である。

コロナ禍により顧客が消滅したことにより、多くの店や企業が「何かしたくても、何もできない」という状況に陥ってしまった。しかし、顧客リストを持つ店は、何らかの手を打つことができた。たとえば、先ほど例に挙げた名古屋のレストランはフェイスブックなどを通じて顧客に発信し、新大阪のバーも顧客にハガキを送った。そうすることにより売上を作ることができたのだ。

顧客リストを活用したら4トンの卵が即完売

相模原市で養鶏業を営むある会社も、顧客リストによって救われた会社の一つだ。

小阪裕司『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)

需要の旺盛な3月から4月にかけてコロナショックの直撃を受けた同社では、顧客からの注文が大幅に減少。生産量を増やしていたこともあり、4トンもの卵が余ってしまうという事態に陥った。

この会社の主な取引先は飲食店やスーパーなどだったが、一方で直売所と通販によって一般消費者への販売を行っていた。そして、これらの顧客を地道に増やし、関係性を深め続けていた。この危機に際し、こうした顧客の方々に、顧客リストを通じてダイレクトメールを出したのだ。

「緊急事態、助けてください!」

すると、顧客からの注文が殺到。4トンもあった卵の在庫はみるみるなくなり、むしろ在庫確保に苦労するような状況になったという。その後も直売所の売上は伸び、2020年3月以降、前年比136%を達成している。

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