会員制を導入したことで前年と変わらない売上を維持

もう一つ、新大阪にあるバーの事例も紹介したい。

緊急事態宣言発出によって午後8時以降の営業自粛が求められる中、それこそ「手も足も出ない」状態に追い込まれたのがバーだろう。深夜営業ができないことは、バーにとってまさに死活問題である。

そんな中、同店もさすがに2020年4、5月の売上は落ちてしまったが、それでも前年比マイナス6%に抑え、6月以降は再び前年比を超える売上を回復しているという。それを支えてくれたのは、店主が「会員」と呼ぶ顧客だ。

このバーはご夫婦でやっている小さな店で、すでに20年以上続いている。その間ずっと常連客を大事にして商売していたが、2019年に、その常連客を会員化する制度を導入。コツコツと絆作りを進めてきた。その会員らには、1本数万円のウイスキーが予約だけで完売するというのだから、培ってきた絆の強固さがわかる。この会員、2020年を迎える頃には、その数が500人ほどになっていたが、そんな中でのコロナ禍である。

同店では緊急事態宣言発出の直前、この約500人の顧客にハガキを出した。そして、開業以来の危機であることを報告するとともに、おつまみの通販とテイクアウトをやることを通知。おつまみといってもバーのおつまみだから、単価もたかが知れている。にもかかわらず、前年とそん色ないほどの売上を作ることができた。

枝豆のガーリック炒め
写真=iStock.com/deeepblue
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その理由は、500人のうち半数を超える276人が、積極的に買い物をしてくれたからだ。ちなみに、通販とテイクアウトは会員以外の人も買うことができたが、買ってくれたのはほぼすべて会員だった。

会員制とクラウドファンディングの違い

誤解しないでもらいたいのは、これはいわゆる「クラウドファンディング」とはまったく違うということだ。

一時期、クラウドファンディングを利用してコロナショックを乗り切る資金を調達するという動きが活発化した。だが、この事例では一方的に助けてもらうのではなく、あくまで「商売」を行っており、相手にも喜んでもらっている。

クラウドファンディングは何度もできないが、商売なら手を変え、品を変え何度でもできる。だから、何度でも危機に対応することができる。

そして、重ねて言いたいことは、これらの店が特別ではないということだ。私の主宰する「ワクワク系マーケティング実践会」には同様の報告が大量に寄せられており、それを読む限りにおいては、「コロナショック」などという言葉を一瞬、忘れそうになるほどだ。

この二つの事例は、「顧客消滅時代に負けないビジネスの要諦」をはっきりと教えてくれる。

だが、表面だけを見て「通販をすればいいのか」「『開業以来の危機!』と言えばいいのか」と捉えると、本質を見誤る。彼らの本質はそこではない。