「怒る」対象は人、「叱る」対象はこと

パワハラを心配するあまり甘くなり過ぎたり、真剣に向き合わない上司や先輩が増えている昨今です。

しかし厳密には「怒る」ことはパワハラになっても、「叱る」ことは、よほど執拗に繰り返さない限りはパワハラになりません。もちろん、正確には各社のガイドラインによりますが、セクハラと違ってパワハラにはグレーゾーンも存在します。

そこで「怒る」と「叱る」を整理しておくと、「怒る」とはイライラした感情のエネルギーの放出ですから、自分のためです。

一方、「叱る」は相手の行動変容を促すためのコミュニケーション様式のひとつなので、相手のためです。

また「怒る」は相手を怒るので、対象は人です。

逆に「叱る」対象は人ではなく、相手がやってしまった「こと」、作り上げた「もの」になります。

「叱る」ことによって相手が委縮したり、関係性が崩れることが心配なら、「諭す」というコミュニケーションの様式を用いる手もあります。

「叱る」なら、定番なのは、

「○○さん、勘違いしてると思うんだけど……」

という枕詞からのスタートです。

重宝フレーズ「勘違いしていると思うんだけど」

元々この「勘違いしていると思うんだけど……」という言葉は、部下・後輩や若手の「鼻を折る」常套句として重宝されてきたフレーズです。

元々は強い意味で「なんか勘違いしていると思うんだけど……」と使われましたが、「もしかしたら勘違いかもしれないけれど……」と使うと完全に弱毒化されて、まったく別なニュアンスになるとは思いませんか。

この特性を逆手にとって使うのです。

大塚寿『自分で考えて動く部下が育つすごい質問30』(青春新書インテリジェンス)

「○○さん、勘違いしていると思うんだけど、これ、コンプライアンス研修でやったよね。もし、聞き逃してたり、その時、離席していたとしても、『聞いてません』じゃなくて、まずは自分で情報を取りに行こうよ……」

という言い方。

この「勘違いしていると思うんだけど」を強い意味で取るか、弱い意味で取るかはその時の部下次第。

強い意味で取ってショックを受けているようなら、

「これだけ習うことがあれば、誰でも勘違いはあるからさぁ」

と、勘違いを矮小化するフォローをするのがスマートな使い方です。