それに欧州債務危機の際、EU各国では財政再建化を推進するため、付加価値税(VAT)の引き上げや所得税の引き上げが断行された。これに対する有権者の反発は強く、反EU運動の源流の一つになったきらいは否めない。パンデミック(世界的大流行)危機がまだ現在進行形である環境で、個人向けの増税など政治的には言語道断というところだろう。

他方で「国際炭素税」や「プラスチック新税」の場合、基本的にそれが法人を対象とした課税であることや、いわゆるSDGs(持続可能な開発目標)との兼ね合いがあることなどから、有権者の理解を得やすい。それがさらにEUや各国の親EU政党の支持率の向上につながるという好循環が描けそうな点でも、EUにとって魅力的なプランだ。

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それに有権者の理解を得やすいという意味では、デジタル課税は最たるものといえそうだ。コロナ禍で多くの人々が苦境に立つ一方で、ビッグテックの業績は極めて好調、特に小売りのアマゾンなどはコロナ特需を謳歌おうかしている。フランスのブリュノ・ルメール経済・財務相を筆頭に、国際合意がなくてもデジタル課税を先行する用意があるとEUは息巻いている。

加えて、事実上GAFAを狙い撃ちにする「デジタル課税」に強く抵抗していた米国のドナルド・トランプ前大統領が退場したことも、EUにとって追い風となっている。1月に就任したジョー・バイデン新大統領はむしろ、GAFAへの課税強化の公約を掲げている。トランプ前大統領の退場で「デジタル課税」包囲網は着実に狭まったといえる。

EUを離脱した英国は法人税の引き上げも実施

「コロナ増税」の流れは2020年1月にEUと袂を分けた英国にも及んでいる。英国では、3月3日に2021年度の予算案が発表された際に、リシ・スナク財務相が25万ポンド(約3700万円)の利益を上げる企業に対して、2023年度より法人税を現行の19%から25%に引き上げる計画を示した。実質的には大企業を狙い撃ちにした増税となる。

スナク財務相は予算案の議会説明で、将来世代への負担を先送りすることはできないと明言した。未曽有の非常時で財政が悪化することは仕方のないことだが、財務相として近い将来の増税を明言した点は評価に値する。とはいえ法人税が歳入に占める割合は21年度予算ベースでも5%弱にすぎず、この増税が財政再建に資する効果は限定的だろう。

英国の法人税の水準は今回の増税で引き上げられても、世界的には低いままだ。その意味で英国の場合、法人増税の「のりしろ」がそもそも大きかった。しかし増税対象を大企業に限定したのは、コロナ禍に加えてEU離脱の悪影響を色濃く受けている中小企業への配慮が欠かせないためだ。同様に、個人に対する増税も手控えられている。

英国は2024年に総選挙を控えている。支持率が低迷するボリス・ジョンソン政権にとって、所得税や付加価値税の引き上げは命取りになりかねない。とはいえそうした環境であるにもかかわらず、可能な領域において増税を企図する英国の姿からは、政権与党である保守党が貫いてきた財政均衡主義の伝統が少なからずうかがえる。