CSR部門だけでなく全社員が社会貢献に関わる状況へ

こうした流れに渋々ながら付き合う企業や、形だけ従うような企業もいるでしょう。しかしこれを新たなビジネス機会だと捉えて動き始めている企業もあります。社会的な課題解決が事業機会につながり、さらにそれが投資を呼び込んで新たな事業機会へとつながっていくという循環が生まれ始めているからです。

この循環がさらに進めば、社会貢献に熱意を持つ良い人材もその企業に集まり、さらに企業の競争力が高まるという好循環にもつながるでしょう。

また2011年以降、戦略論で著名なハーバード大学のマイケル・ポーターにより戦略的CSV(共有価値創造)の考え方が提唱され、ビジネス領域にも広まったことで、社会に対して良いことをすることが企業の競争力になるという理解も広がっています。

世界最大の機関投資家と言われている日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)では、ESG指数に連動したパッシブ運用を行っています。つまり、実際に環境・社会・ガバナンスに優れた企業に、お金が流れ込みつつあるのです。

こうした流れを鑑みるに、かつてはCSR部門の従業員だけが主流事業の周縁で社会貢献を考えていた状況から、すべての従業員が本業の中で社会貢献に関わっていく状況へと変わりつつあると言えるでしょう。

社会貢献と営利活動、規模の3つを兼ね備えたビジネスが可能に

こうした社会貢献とビジネスの関係については、従来から社会的企業やNPOが行っていました。こうした組織のなかには、社会貢献と営利活動を両立させているところもあります。しかし多くはサービスの提供範囲が小さいままで、大きな社会的インパクトにつながりづらい状況にありました。

今回の変化の大きな特徴は、社会貢献と営利活動、そして規模の3つを兼ね備えたビジネスが可能になってきているという点にあります(図表1)。この背景にも、デジタル技術があります。

デジタル技術の特徴の1つとして、規模拡大の容易さが挙げられます。ソフトウェアはほぼ無料でコピーすることができ、さらには従来の物理的なサービスとは違い、土地や国境を容易に越えてサービスが提供可能です。フェイスブックやLINEのように、成功すれば世界や日本全国にわずか数年で普及させることができます。

またデジタル技術は、データに基づいたパーソナライゼーションによって多様なサービスを展開できるというメリットもあります。かつてはマスにしか発信できなかった情報を、特定の条件を満たす人にスマートフォンで通知することも可能になりました。

これは公共サービスにも適用できます。たとえば給付金を受けられる人だけに通知を送ることもできますし、そのほかの公共サービスについても、必要な人に必要な分だけ届ける、という仕組みが構築可能になりつつあります。