理想を「提示する」ことで人々を巻き込む

では良い課題や問いを見つけるにはどうすればよいでしょうか。

最近では良い問いを生み出すために、アート的な考え方をビジネスの文脈に応用することが検討されています。アートは、常識とは異なる見方や物事の新しい意味、新しい価値観を提示することを通して、未来への想像力をかき立て、新たな問いを生み出してくれるでしょう。

一方で、アートに正解はない、自分だけの答えを見つけよう、などと言われるように、アートは多くの場合、新たな選択肢としての問いを生み出すことに留まりがちかもしれません。

ビジネスを進めていくうえでは、選択肢を生み出すだけでは不十分です。複数の選択肢の中からいくつかを選んで、その未来を実現させるためにコミットしなければなりません。さらにその選択肢の実現には人々を巻き込む必要が出てきます。新たな選択肢を提示して人々を巻き込みながらその実現に向かって追い求めていくもの、それが「理想」です。

そもそも課題とは、現状と理想のギャップです。理想がなければ、課題は見つかりません。逆に、良い理想があれば、良い課題や良い問いが生まれます。つまり、課題や問いを見つけるためには、理想を定める必要があります。

良い問いを「見つける」というよりも、優れた理想を設定することで、良い問いを「生み出し」、理想を「提示する」ことで人々を巻き込むのです。そしてこの理想が、今注目される「インパクト」と呼ばれるものです。

これまでのビジネスであれば、理想は上司やクライアントなどが提示してくれていたのでしょう。営利というわかりやすい1つの目的があったため、利益最大化以外のことを考える必要もなかったのかもしれません。そのような背景もあってか、インパクトを定める方法はそれほど多く議論されてきませんでした。

しかし、2020年代を生きる私たちは日々SDGsや気候変動の問題や、地域の社会課題に向き合っていく必要性が高まっています。そうした環境では、そもそも私たちの社会は何を目指すのかという理想像、つまり社会的インパクトを定めることがこれまで以上に求められます。これまで解説してきた通り、ビジネス活動においても、そうした社会的インパクトを求められる傾向が高まりつつあります。

つまり今、ビジネスや社会実装の文脈でも、ロジカルシンキングやデザイン思考に加えて、インパクト(理想)を設定し、理想と現状のギャップによって新たなイシュー(課題、問い)を生み出し、インパクトを提示することで人々を巻き込みながらそのイシューを解決していく――いわばインパクト思考が求められつつあるのです。

そこで本書では「イシューからはじめよ」にあやかって、「インパクトからはじめよ」と主張したいと思います。