社会の仕組みをいかにして変えるか

この本のテーマである未来の実装、テクノロジーの社会実装も、まさに「インパクトからはじめよ」という考え方で進めることで、様々な障害が乗り越えられるようになる、と考えています。

本書の母体となったワーキンググループでの調査では、「日本の社会実装に足りなかったのは、テクノロジーのイノベーションではなく、社会の変え方のイノベーションだった」という結論に辿り着きました。そして、社会を変えるうえでインパクトを志向することが、社会実装の成功に大きく寄与する1つの要因だったのです。

「テクノロジーの社会実装」というとき、私たちはついテクノロジーのほうに視点を向けてしまいがちです。イノベーションといえば技術的な進歩であると考えてしまうようにです。

もちろんテクノロジーを改善していくことはとても大事なことであり、これまでの社会実装はその考え方でよかったのかもしれません。

しかし上述した規制の話は、まさに社会の仕組みの話です。そして社会の仕組みを変えなければ、新しい技術が社会に受容されることはありません。特にデプロイメント期において、その傾向は強まります。

「テクノロジーと社会をあとで接合する」は間違い

私たちが調査してきた事例を見てみると、テクノロジーに重点を置いて、テクノロジーを社会へ実装していく、という発想で行ったプロジェクトは失敗しやすい傾向にありました。一方、成功している事例では、テクノロジーをあくまで手段として捉えたうえで、社会の課題やニーズを把握しながら、むしろテクノロジーではなく社会を変えるような動きをしていました。

そして、私たちがインタビューを行った社会実装の担い手の皆さんは、いかに社会を良くしていくかを考え、社会との共同作業としての社会実装という観点を重視しながら進めてきたかということを何度も話していました。

つまり彼ら・彼女らは、テクノロジーの社会実装というときに、「テクノロジーの社会実装」とテクノロジーの変化そのものに重点を置くのではなく、「テクノロジーの社会実装」と社会を変えることのほうに重点を置いて話す傾向が強くありました。そして自社の事業の社会的インパクトを強調していました。

「テクノロジーの社会実装」を言葉の表面的な意味を捉えるだけでは、テクノロジーと社会とを別々のものとして捉え、あとから接合すればいい、という考え方になりがちです。もしくはテクノロジーのほうに重点を置いて考えてしまう傾向にあります。

馬田隆明『未来を実装する テクノロジーで社会を変革する4つの原則』(英治出版)
馬田隆明『未来を実装する テクノロジーで社会を変革する4つの原則』(英治出版)

しかしこれから変化を起こす人たちは、単にテクノロジーを使った製品やサービス開発方法だけを知るのではなく、社会を中心に考え、社会とテクノロジーを調和する方法を学ぶ必要が出てくると考えます。

つまり、テクノロジーの社会実装を考えるとき、私たちはテクノロジーの「社会への実装」という観点から「社会との実装」という認識に変えなければならない節目に来ています。テクノロジーの社会実装とは、社会との共同作業であり、決して実装する主体となる人たちだけの営為ではありません。社会との対話や共同作業を通して、はじめて実現していくものです。

そのときに参考になるのが、ソーシャルセクターの方法論です。民間企業がソーシャルセクターに学べる点は大きく2つあります。1つ目は社会的インパクトを出す方法、2つ目は規制や政治との関わり方です。詳細は『未来を実装する テクノロジーで社会を変革する4つの原則』(英治出版)に記載しています。そちらも参考にしていただければ幸いです。

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