規模を拡大しつつ、個人に適したサービスを提供できるのが、デジタル技術の特徴です。そうした特徴をうまく使えば、これまではローカルにとどまりがちだった社会的企業が、日本全国や全世界に価値のあるサービスを提供可能になるかもしれません。そして、多くの人たちに提供することができれば、十分な利益を稼ぎながら社会貢献できるようになるのです。
つまり、非営利企業と営利企業の境目が徐々に揺らぎつつあるということです。社会的企業の研究者たちは、伝統的な非営利企業と営利企業のハイブリッドとしての社会的企業を、図表2のように分類しました。
この分類で言えば、かつては多くの企業が伝統的非営利組織と伝統的営利組織の両極のいずれかだったものが、今は多くの企業が真ん中に当たる「社会的企業」や「社会的責任を持つ企業」であることが可能になりつつあり、そしてそれが社会から要請されるようになってきているということです。
イシューからインパクトへ
こうして民間事業者(プライベートセクター)と政府(パブリックセクター)、社会的企業(ソーシャルセクター)の、3つのセクターの接近が進む中で、三者の連携も重要性を増しつつあります。そして、すべてのセクターに共通するキーワードとして注目されているのが、「インパクト」という言葉です。このインパクトの考え方は、ビジネスパーソンにとっても重要になってきています。
その背景には、ビジネスパーソンに求められるスキルの変遷があります。
1990年代後半から2000年代にかけて、コンサルティングファーム出身者によって書かれたロジカルシンキングの書籍がよく読まれました。上司やクライアントから与えられた問いや、市場ですでに顕在化している課題を受けて、問いや課題への解の質を上げていくための手法として、ロジックツリーやMECE等をはじめとするロジカルシンキングの手法や仮説思考は広く受け入れられました。こうしてコンサルティングファームの方法論が、一般に広まっていきました。
2010年代はデザイン思考の本がよく手に取られました。目の前の顧客の潜在的な課題を、顧客への共感とものづくりを通して解決しようとするデザイン思考の方法論は、ユーザーに寄り添う形の問題解決の方法として広まりつつあります。
これらの方法論が広まることで、多くの人たちが問題解決のための武器を手に入れました。逆に言えば、「課題を解決する」「問いに応える」だけでは差別化ができなくなりつつあります。そこで次に求められている能力が、「良い課題」や「良い問い」を見つけることです。
2010年に出版された『イシューからはじめよ』(英治出版)でも、解の質より先に取り組むべきなのは、課題(イシュー)や問いの質を上げることだと指摘されています。