尊敬する先輩の言葉「『困った』で止まるな」

数千万円の売り上げがあり、依頼や問い合わせも絶えない――。そんな状況で事業を移管してしまうのは考えにくいことですが、郷田さんには売り上げよりも優先順位が高いものがありました。

「『こんなサービスを出したら、喜ばれるんじゃないか』『こういうサービスなら欲しい人がいるんじゃないか』とアイデアを考えて、大きく育てていくのが楽しいんです。もともと、起業する前に働いていたシステム開発やコンサルティング会社でも、一つのプロジェクトの長さは2、3年。造船会社のシステムの次は、百貨店、次は冠婚葬祭の企業……と、2、3年ごとに新しいプロジェクトに取り組むので、その周期に慣れてしまったのかもしれません」

自ら考え、学び、成長を感じられる環境にいることが楽しいと語る郷田さん。そのスピリットを培ったのは、SE時代にお世話になった先輩のこんな言葉でした。

「いい先輩に育てていただきました。その方の指導が、『“困ったね”で止まるな』だったんです。例えばシステムがトラブルにあった時、『困った』と頭を抱えて止まってしまうのではなく、そこから現状の課題を洗い出す。そして、『自分たちが目指したものとのギャップを埋めるために、お前はどうしたいんだ? 思考停止するな』とたたき込まれたんです」

この姿勢は、仕事だけでなく、プライベートでも大きな力になっているようです。

「『夫が話を聞いてくれない』『子どもが言うことをきかない』ということはあるんですけど、文句を言ったところで改善しない。『では、どうするか?』と考えたいと思っています」

時には「学歴」のカードを切ることも

ここまで話をお伺いしていて、ひとつ気になったことがありました。それは、東京よりも男尊女卑のイメージが強い土地で、新たな事業に着手するたびに、「女性だから」という圧を感じる場面はなかったのか、ということ。質問を向けると、自分自身が女性だからということで、面と向かって不快なことを言われたり、差別を受けたことはないそう。

「多分それは、私がラッキーだったのだと思います。九州に来た当初は、コンサルティング会社に入ったわけですが、仕事柄、スーツを着てコンサルタントとして相手先の企業に行くと、それなりに尊重して接してもらえましたから」

コンサルティング会社では実力主義で、女性で子どもがいるからといって差別はされないけど、甘やかされることもない。お客様とも、真摯しんしに向き合えば男女関係なく信頼関係が結べたと感じられたそうです。

「ただ、独立したての時は、実績もないし、まだ30代前半で若く、初対面の時に『なんだこいつは』という感じになると思ったので、名刺の裏に「東京大学卒業」と入れました(笑)。学歴なんて現在の仕事の成果に関係ないと思ってますが、名刺交換の時、裏にこれがあるとインパクトがあります。特に権威を重んじられる方には……(笑)。使えるものは何でも使おうと思いました」

実は郷田さん、身長が150センチと、ちょっと小柄です。「特に20代の頃は、『若くてちっちゃい女が来た』となると、信頼されにくいのではという場面もありました。そんな時は、当時の上司が初めにさらりと『ウチの郷田は東京大学を卒業していまして』と伝えていたりしてたんですよ(笑)」