障害のある「ひとりのため」に生まれたこれらのアイテムは、結果的に、障害のあるなしにかかわらず「カッコいいから」「機能性が高いから」という理由で、さまざまな人に購入されていったんです。

2018年4月。発表記者会見を開催すると、メディアが詰めかけました。そして、ユナイテッドアローズの創業メンバーで、長らくクリエイティブディレクターをつとめた栗野宏文さんは「041」をこう評価してくれました。

「メガネが開発されるまでは、目の悪い人は障害者だった。今やメガネは個性。たったひとりのニーズが、新しいデザインと『美』を生み出しました。これはいわゆる社会貢献ではなく、新しいビジネスの第一歩。その結果として、世の中の役に立てばいい」。

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架空のペルソナやターゲットではなく「ひとり」を起点に商品を開発することが、世の中にとっての新しい価値を生んだのでした。

ひとりを起点に、みんなにとって心地いい服をつくる。つまり、「041(ALL FOR ONE)」は「140(ONE FOR ALL)」になったんです。

「041は、服屋の原点だったんですよ」

栗野さんに聞いてみたことがあります。「どうしてふたつ返事で引き受けてくれたんですか?」と。するとこんな話をしてくれました。

「041は、服屋の原点だったんですよ。そこに居るのが、お客さんだったからです」。

ハッとしました。

「歩きやすい靴が欲しいとか、軽くて温かい上着が欲しいとか、ニーズはどんな人にでもありますよね。本来、それを具現化することで僕らはこの商売を成り立たせてきたわけです。障害当事者にユナイテッドアローズの本社に来てもらって、さまざまな課題や要求をもらう。それに対して、みんなで『こういうアイデアはどうだろう』と話し合う。目の前に『こんな服が欲しい』と言ってくれる人がいる。

でも今は、縦割仕事や分業化と言ってしまえばそれまでだけど、お客様のニーズは、販売スタッフを通して間接的に聞くことはできても、当事者からは聞けない。だからこそ、当事者から聞けたっていうのは燃えますよね、やっぱり。別に『お困りごとを解決する』っていう意味だけじゃなくて、服を作るプロとして『おもしろいじゃん!』という気持ちがあった。お客さんが喜んでくれるんだったらやろうよ、という」。