息子を哀れむのではなく、必要としてくれた

だれかに息子のことを話すと、たいていの人にこんな反応をされました。

「聞いてはいけないことを聞いてしまった」とハッとしたり、気まずそうな顔をしたり、場合によっては泣いてしまう人もいたり。

けれども松崎さんだけは、ニヤリと笑った。「未来のブラインドサッカー選手候補が見つかった」って。息子を哀れむのではなく、必要としてくれる人がいる。そう実感した、初めての出来事でした。

心からこの人の力になりたいと思いました。クライアントとしてではなく、ひとりの人として。この人のために自分の持てる力を発揮したいと思えたんです。

業界の外へ一歩出てみると、これまでなに気なくやってきたことが価値あるものとして受け入れてもらえた。知らなかった。広告をつくる力ってどこまで社会に貢献できるんだろう? わからなくなりかけていたのに、こんなに喜んでもらえるんだ、と。

それまで動かしてきた経済規模とはもちろん何桁も違うし、ほんの小さな循環だけど、確かな手応えがあった。

ブラインドサッカーとの関わりをきっかけに、僕はもう一度、コピーライターという職業の可能性を信じることができました。

「あれ? 広告の仕事とまったく一緒じゃないか」

それ以降、障害当事者のみなさんとの対話は、回を重ねるごとに時間が足りなくなってきました。というのも、僕が話を聞くだけでは終わらずに、相手から「ちょっといいですか?」「実はこんなことに困っていて」と相談されるようになったからです。

「それっておもしろいですよ!」「もっとこうしたらどうですか?」……僕はデジャヴに陥りました。「あれ? これって、広告の仕事とまったく一緒じゃないか」

クライアントから相談が来て、アイデアを練って、提案して、具現化するためにいろんな人の力を借りる。広告と同じです。

けれども、自分が持つスキルを、アイデアを、大切な人のために使った「やりがい」が、全然違った。

言ってしまえば、これまでの仕事は「もともと強いものをより強くする」仕事でした。たとえるなら、「レアル・マドリード(銀河系軍団)をコンサルしている」みたいな。

でも、クリエイターの仕事って、本当はもっともっともっともっともっともっと活躍領域が広いのではないでしょうか。