ヤフーに入った時も、とにかく全員に挨拶をした

考えてみると、その後、48歳でヤフーに入ったときも、僕は同じことをしていた。

このときは、宮坂学社長(肩書きは当時。以下同)に声をかけられて入社することになった。Yahoo!アカデミアでのリーダー開発を任されることになっていたので、「鳴り物いりで入社してきた」という印象もあったらしい。

けれども、僕は相変わらずだった。

入社初日にはオリエンテーションを受けて、2日目。出社するとやることがない。そこで僕は、フロア中をまわって新人からベテランまで、とにかく全員に挨拶をした。「伊藤でございます」。

入社してすぐなんて、やることはない。知り合いもいないまま、手持ち無沙汰で座っているなんて……「あの人、なんでぼーっと座ってるんだろう」と笑われたらどうしよう。恥ずかしい。実に苦痛だ。だから、どうせ暇なんだし、というわけで、フロア中をまわって挨拶したのだ。

翌日も、その翌日も、僕は会社中を挨拶にまわった。前の章で言ったように、「どんな仕事をなさっているんですか?」と会う人、会う人に聞いたのもこのときのことだ。

恐怖心と劣等感が、壁を破る力になった

それから1年ほどして、だいぶヤフーにもなじめた頃、役員や同僚の本部長たちと飲みに行くことがあった。

そのときも、「すごかったですよね」と言われた。「羊一さん、入ってきたときに、もうそこら中に……若い者からベテランから、全員と話していましたよね」と。

「ええ、してました。よく覚えていますね」
「そりゃ、覚えていますよ。あんなことをしている人なんて、はじめて見ましたから」

普通は、僕のように「鳴り物いり」で入ってきたら、堂々と座っている印象があったそうだ。それなのに、ペコペコ頭を下げて回っている僕を見て、びっくりした、と。

写真=iStock.com/vkyryl
※写真はイメージです

そうか、確かにみんなはしないかもな……と思った。

「僕は恥ずかしいっていうか……怖いからやっていただけですよ。それに、その人が新人かベテランかなんてわからないし」と正直に打ち明けたのだが、「いやー、それでも普通はできないですよ」としきりに感心された。

そこで気づいた。自分の恐怖心や劣等感が、壁を破る力になったんだと。

種をまくには、行動しなければいけない。でも、行動するのは怖い。僕の場合は、根っこにある別の恐怖――「自分は社会になじめない」「仲間に入れてもらえないかも」という恐れが、壁を破るための後押しをしてくれた、ということだ。

Seed&Water
あなたが、社会に対して感じている恐れはなんだろうか(それは僕と似ているかもしれないし、似ていないかもしれない)。
自分の恐れを、言語化してみよう。
それは、壁を破る力になるかもしれないから。