足りないのはスキルではなく、経験と知識だ

コミュニケーションの重要性、皆を腹落ちさせた上で進めていくことの大切さ、そして意見をまとめていくには視点や背景の違いを互いに許容する姿勢が必要だということ──。

平野さんは「年齢も視点も違う人たちと話す際のコツが鮮明になった」と語る。加えて、自分に足りなかったのはスキルではなく、業務知識と、合意形成やコミュニケーションの経験なのだということもはっきりわかった。

もうひとつ、「人」の大切さもあらためて実感した。プロボノは自主参加のため、成果物のクオリティーは参加者の熱意やサービス精神に左右される部分がある。幸い、この時のプロジェクトのメンバーには、自ら積極的に動く人や協働に慣れている人も多かった。

「『チームプロジェクトを成功させるには、やっぱり人が大事なんだな』とビビッドに感じました」と平野さん。アカウントディレクターという、ちょっと背伸びした役割を無事にこなせたのも「優秀なメンバーたちのおかげ」と話す。

写真=サービスグラント提供
結城座スタッフと行った最終ワークショップ

「社内」という甘えもあった

また、社外の人たちと協働したことで、「会社では相手に甘えていた」と反省も。「同じ会社なんだから視点も同じはず」「こちらの意図をわかってくれて当然」――。そんな甘えが、組織長たちとのやりとりを難しくしていたのかもしれない。以降は、きちんとコミュニケーションをとる努力、目線を揃える努力を怠けちゃいけないと自分に言い聞かせるようになった。

「外の世界に触れて自分に足りないものが見えましたし、逆に少し自信を取り戻すこともできました。私もまったくダメってわけでもないなと(笑)。おかげで、それからは心に余裕を持って仕事に取り組めるようになりました」

収穫が大きかったことから、その後平野さんは、2人目の出産後にも再度プロボノに参加。支援先は視覚障害者が行う野球競技の団体で、競技選手の増加を目的とした紹介パンフレットの制作を手がけた。

前回の経験を生かして、チーム側のまとめ役であるプロジェクトマネジャーを務めたが、この時は子育てが忙しかったこともあり、「要望を上回る付加価値をつけられなかった」と残念がる。ただ、完成したパンフレットはとても喜ばれ、人の役に立つことの喜びをあらためて実感したという。

写真=サービスグラント提供
赤を基調とし、弱視の方にも配慮したパンフレットを作成した