「相対順位」が高いと自己効力感も高くなる
先行研究では、個人と周囲の主体との関係性(相対順位と友人・親や学校からの教育投資)に着目していますが、私の研究では、自分に対する自己認知に着目してみました。着目したのは、自己効力感です。
自己効力感とは、Bandura(1977)が提唱した社会学習理論の中にある心理的特性を指します。Banduraによる自己効力感の定義とは、目標達成をもたらすような一連の行動に対して計画し実行する能力に対する自信(self-efficacy, defined as “People's judgments of their capabilities to organize and execute courses of action required to attain designated types of performances”)です。
簡単にまとめると、目標を達成できると思える自信の度合いです。この自己効力感の形成する主要な要因は主に3つあると考えられています。
個人が成功を積み重ねることで、次の目標も達成できるという自信がつくこと。これは、自己効力感を形成する3つの要因の中で最も影響力が強いとされています。
2:代理体験(Vicarious experiment)
他者が達成している様子を観察することにより「自分にもできそうだ」と予期すること。
3:言語的説得(Verbal persuasion )
他人から励まされること。ポジティブな言葉をかけられ、目標を達成できるかもしれないと感じることを指します。
自己効力感から学力が伸びる好循環を生む
私の分析では、被験者に40分かけて回答を頂いた心理特性データを、Pintrich et al.(1991)の研究を参考に自己効力感の指標を作成しました。8項目の質問を5点満点の自己評価EX:5(=非常に当てはまる)/1(=当てはまらない)で回答してもらい、それの合計点を自己効力感として扱います。最高点は40点で最低点は8点でした。
自己効力感と相対順位の関係性を分析した結果、順位が高い生徒ほど、自己効力感が高まることがわかりました。数字的には、相対順位(relative rank)が最も高い人は、最も低い人に比べて、3.5点ほど自己効力感のスコアを上昇させました。つまり順位が高いという成功体験により自己効力感が高まる、ということです。
成功体験は自己効力感を形成する最も重要な要素です。そして自己効力感が高いと学力が高くなるという研究結果が数多く存在します。
例えばCollins(1982)実験では、子供を数学的能力に応じて上位(high)・中位(medium)・下位(low)のグループに分け、各レベルに応じた難しい数学的問題を解いてもらい正答率の変化を調べました。この際、それぞれ自己効力感が高いグループと低いグループに分けてみると、自己効力感が高い子供は低い子供よりも正答率が高くなりました。
自己効力感が高い子供の正答率は、下位グループで約20%、中位では15%・上位は5%高くなりました。このように、自己効力感が高いと個人の学力が高まったのです。