順調な拡大によって迫られた選択

オフィス向けの文具の通販は、当時としては新規性の高い事業だった。そしてこれは、プラスという文具メーカーによる、文具小売という流通サービスへの進出であり、プラスにとっては枠をはみ出す事業だった。

文具メーカーとしての事業の枠をはみ出すことになったことから、アスクルに問題が発生する。小売サービスとしてのアスクルの事業は順調に拡大していった。ところがそうなると、顧客からは、品ぞろえの拡大が求められる。顧客は「文具以外の品ぞろえも充実してほしい」「プラス以外の商品も欲しい」と希望する。

しかし、この希望に対応することは、プラス以外の製品、場合によっては競合他社の製品の取り使いを充実させることにつながっていく。プラス製品の販売網の拡充という目的とは相いれない方向に踏み出すことを迫られる。

伸び盛りの新事業の成長を優先

プラスにとって必要なのは、小売サービスとしてのアスクルの事業が拡大か。プラス製品の販売網の拡充か。いずれの目標を優先し、どのように対応していくか。

プラスの経営陣は、伸び盛りの小売サービスであるアスクルの事業を拡大することを選択した。自社製品の販売網を拡充することも大切だが、顧客が欲しがる品物をそろえ、アスクルの事業の成長を導くことの優先順位が高いと判断したのである。そのためにアスクルでは他社製品の取り扱いをはじめるとともに、1997年にはプラスから分社化し、独立性を高めた。

その結果アスクルの売り上げは、大きく成長する。1996年には56億円だったアスクルの売り上げは、3年後の1999年には471億円となる。