「たくさんの一般の人」が放射線量を測った意味

もうひとつ、印象的なエピソードがあります。

早野龍五『「科学的」は武器になる 世界を生き抜くための思考法』(新潮社)

ある時、「車に線量計を積んで東京から国道6号線を走ると、柏を通った時に数値が高くなるんですよね」ということを言い出した人たちがいました。実際に測ってみると、やっぱり千葉県柏市は線量が高い。いわゆる「ホットスポット」(局地的に放射線量が高い地域)です。柏ではその後、民間グループが中心になって、地元の農産物の生産者や消費者が、小売業者も巻き込んで納得いくまで議論をして、どの場所でなら作物を育てていいか、どのくらいまでの放射性物質を含んだ食品なら出荷・流通して食べられるかなど、みんなで「安心」して生活するためのルールを自分たちで作る動きが生まれていきました。

これは、政府の公式なデータには載らなかった事実が、あちこちでいろんな人が測ったことによって見つかった例です。そのうちに航空機モニタリングが広い地域のデータを取るようになり、汚染の全貌を摑むにはそのデータが相当優秀だということが分かったため、個人で線量を測ることは徐々に役割を終えていきますが、初期の段階でたくさんの一般の人が測っていたことは、このように少なくない意味を持っていたと思います。

ツイッター以上に、現場が大切

当初は、みんなが自分の家の周りの側溝や雨どいなどを一生懸命測っていました。それで「ここがこんなに汚染されている」「うちにはなんで除染が来ないんだ?」「政府の発表はやっぱり間違っている」「うちは避難すべきでしょうか」などの、ものすごくたくさんの声があった。その疑問から、コミュニケーションは生まれていきました。

僕がツイッター以上に大切だと思っているのは、現場です。柏の人々も、インターネットではなく現場でコミュニケーションを図ることで、うまく解決までの道筋をつけていきました。僕も一般市民向けの「ガイガーカウンターミーティング」に駆り出されて、「あっ、あの人の持ってきた機械で測ると高いけど、この人の使っている機械だと低く出ますね。こっちの人が買った機械はちょうど中間くらいだけど、どの機械も極端に高いとか低いということはないですね」と、実際に参加者と一緒に、それぞれの測定器を使って解説をしていきました。

そういうことをやっているうちに、だんだん詳細な汚染地図のようなものができてきて、首都圏では「外部被ばくを理由に避難しなければいけないかどうか」という話題も少しずつ収まっていきます。みんなちょっとずつ納得して、日常生活に戻る人が増えていきました。

僕はもうさすがに、これで自分の役割は終わったと思っていました。

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