夏休みに「福島第一原発から20キロ圏内」に地域留学
地域留学の行先は、福島県南相馬市の小高地区。小高は2011年の東日本大震災で事故が起きた福島第一原発から20キロ圏内にあり、津波と地震、放射能の被害に見舞われ、人が住めるようになったのは2016年7月12日からだ(一部地域は現在も帰還困難地域)。
さとのば大学が提携する「小高パイオニアヴィレッジ」は、コワーキングスペースと簡易宿泊所を備えた施設で、地元出身者が「ゼロから街を作っていく開拓者(パイオニア)の拠り所」になるように作った。
そしてその願い通り、「起業してゼロから街の復興をしたい」といった熱意のある若者が日本全国から集まっている。夏季特別コース受講中、林さんはこのパイオニアヴィレッジに、合田さんはシェアハウスで暮らしながら、コワーキングスペースで大学のオンライン授業を受け、課題に取り組むことになった。
「さとのば大学は、自分でテーマを決めて地域の課題に取り組んだりして自己発見をしていくのですが、私は『地元の人と会うこと』を目的に“数珠つなぎプロジェクト”を行いました。ひとりの方の話を聞いたら、その方から南相馬の尊敬する人や仲間を紹介してもらってと、年齢、職業問わず、数珠つなぎでさまざまな人の話を聞く試みです。この活動を通して、地域の面白い知り合いがたくさんできました」(林さん)
「大学卒業後は東京の大企業に就職すると漠然と思っていたけど……」
知り合いが増え、交流の機会が増えれば、ボランティアなどの頼みごとをする人も増えてくる。夏季コースを一緒に受講したほかの3人はそれぞれの地元に帰ったが、2人はその先も小高にプチ移住することを決めた。
「自分からチャンスを作る」
「チャンスに必ず乗っかる」
「誘われたら絶対に断らない」
を実践し、どんどん小高地域が好きになっていったという。
「ワイン農園のお手伝いや、乗馬ツアーのモニターといったことから、新しく小高にオープンする酒蔵の壁のペンキ塗りまで、いろいろやらせてもらいました。そのうち、プログラミング教材を扱う地元企業のイベントの手伝いなど、有償で手伝わせてもらったりするものも出てきたんです」(合田さん)
小高の人たちに触発され、自分たちも小高で起業すると決めた2人は、当初は塾で起業することを考えた。しかしリサーチを重ねるうちに、子どもたちと地域の分離を感じた。そこで子どもたちが南相馬に愛着を持てるよう、地元の大人たちとのつながりを作ったり、県外から来た人と小高の人をつないだりと、「人と人をつなげる」仕事ができたらと考えるようになったそうだ。
「大学卒業後は、東京の大企業に就職すると漠然と思っていました。仕事とプライベートは別だと。でも、小高に来たら、自分のやりたいことを突き詰めて仕事にしている人がたくさんいて。聞いてもいないのに、ニコニコしながら仕事の話をしてくれるんです。仕事への情熱を感じました。地方でも、社会と自分がつながって仕事をしていく方法があるんだと、将来の選択肢の幅が広がりました」(林さん)