ラクして稼げないのになぜ続けられるのか

やる気さえあれば、誰でも開業できるといえるかもしれない。その一方で、物件が小さいので売り上げの上限は目に見えている。ガイアの夜明けでは「1日当たり5万円程度の売り上げで店を維持できている」という話も紹介されていた。

店を広げたり、多店化したりして大もうけしたい、あるいはラクして稼ぎたいという人にはまったく不向きなパッケージである。個人店ではないから、業種、業態を勝手に変えることはできないし、新商品を投入したりするにも縛りがあるだろう。

まじめにコツコツと営業を続けられる店主ならばいいのだろうが、それでも病気になったらどうするのか、老後の資金が本当に貯まるのだろうかと不安をおぼえなくもない。ただ、前掲書によると10年以上店を続けている店主が全体の8割にのぼるという。多くの飲食店が開業から数年のうちに閉店していることを鑑みると、その数字自体は驚異である。

写真=iStock.com/kuppa_rock
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冒頭で書いたチェーンと個人店のいいとこ取りと書いたが、これは店主にとっても客にとってもいえることである。店主にとっては、開業支援や営業サポートを受けられる一方で、接客マニュアルなどはなく、自分の色を出すことができるから、やりがいが大きいだろう。むろん、客が離れれば自分の責任ということになるが。

チェーンであっても「チェーン的」ではない良さ

それがそのまま、客にとっての魅力になる。「大吉」という看板の安心感があるから入店しやすい。流行はやりのメニューや個性的な商品はないかもしれないが、そのぶんチェーンならではの安定した品質の酒や料理を低価格で楽しめる。それでいながら、「地元の飲み屋」でもあるから、店主や従業員と親密な関係を築くこともできる。今回まわった店でも寡黙な店主もいれば、カウンターの客に愛想よく話しかける店主もいた。それもその店次第というわけだ。

こうした店の個性を表現すること、すなわち「チェーンであっても『チェーン的』ではないこと」が、これからの酒場には求められると考える。先日、人気ラーメン店のオーナーに取材した際に「実際のところ、『何(ラーメンの味)』を提供するかより、『誰(オーナーや従業員)』が提供するかのほうが重要なんです」という話を聞いた。従業員と客の距離が近くなりやすい酒場であれば、その傾向はいっそう強くなる。

新型コロナウイルスに対する政府、自治体の施策によって、居酒屋業界はこれまでにない逆風にさらされている。そんななかでも「店がなくなってほしくない」、「店主を助けてあげたい」と来店してくれる常連客をどれだけ持っているか。それが、その店の真の実力である。地元密着の戦略を徹底している大吉の存在は、そのことをあらためて気づかせてくれる。

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