起業したい、でも「入口はどこに?」

もともと大手企業で働いていた高本さん。起業へのあこがれが生まれたのは30代後半だった。

「30代後半の時、夫が仕事でアメリカに赴任することになり、私は当時働いていた会社を休職して長女と同行しました。1年半の滞在中に、MBAを取得したんですが、そこで出会った人たちは男女ともに起業家が多く、自分で事業を立ち上げるのも面白そうだと思ったのです」

アメリカ滞在中の高本さん(写真=本人提供)

帰国後は、復職する予定だった元の会社を退職。起業の道を模索することにした。しかし、先ほどのドラクエのたとえ通り、「ゲームに参加したいのに、入口がどこにあるのかわからない」状態。

「その時の私にあったのは、『起業したい』という思いだけ。そんな時、自身も起業家で、多くの起業家を支援している奥田浩美さんの講演会に参加。シリコンバレーで開催される『女性起業家の育成プログラム』に誘っていただきました」

ただ、当時の高本さんは次女を出産したばかり。まだ小さい娘2人を残して1人でプログラムに参加するのは難しいと考えた。それに、とても夫がOKしてくれるとは思えなかった。

「奥田さんに相談すると、『起業すれば、毎日パートナーと相談したり調整したりする日々が続くことになる。今回のプログラムのことが相談できないくらいなら、あなたはずっと起業はできないよ』と言われたんです」

壁は自分の中にあった

その言葉に刺激を受けた高本さんは、プログラムに参加する目的、将来自分が何を実現したいのかをまとめて資料を作り、夫にプレゼンを行った。

「そうしたら理解してOKしてくれたんです。私がいない間は彼の実家から義母を呼び寄せてサポートしてくれました」

「壁になっていたのは、子育てや夫の理解ではなく、自分自身の中にある『もしも伝えて、わかってくれなかったらどうしよう』という不安だった。今思うと、これが私にとって、パートナーとのコミュニケーションの壁を乗り越えた最初の経験だったのかもしれません」

思いを伝えることこそが大切。それでもし希望が通らなくても、そこで「自分自身が否定された」と思う必要はない。めげずに何度も伝える努力をしていれば、いつか理解してくれると信じることが大事だと悟った。

シリコンバレーのプログラム参加者の中には、社会を変えたいという強い思いを持ち、子育てをしながら頑張る女性も多かった。起業を目指す仲間と出会いは大きな刺激となった。

シリコンバレーから戻った高本さんは、その年の2018年にはヘルスケア関連のベンチャー企業の立ち上げに参加。2019年には医療系AIロボットシステムを開発するスタートアップに参加し、リモートワークでマーケティングや広報を担当するようになった。

写真=本人提供
シリコンバレーのプログラム参加者と。後列左端が高本さん