ある日家に帰ると、妻と娘はいなくなっていた

家に帰らない僕に妻からメールが来て、娘が「パパどこ行ったの? パパと遊びたい」と言っていると言われた。僕は1カ月ぶりに家に帰った。妻と話しあい、娘が幼稚園を卒業したら離婚しようと決めた。それまでに妻は娘とふたりで暮らしていく準備をしたい。急に離婚してひとりで娘を育てていくのは自信がないと言われた。

ズュータン『妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。』(ポプラ社)

だけどX社だらけの家で、人格の変わってしまった妻と一緒にいることは耐えられなかった。そして耐えられなくなった僕は、気づくとある朝「お願いだからX社をやめてくれ」と懇願していた。僕は「マルチ商法だろ!」と言ってはいけないことを言ってしまった。それに対して妻は「X社はただの通販だよ!」と反射的に強い口調で言い返してきた。

気づいたら僕は妻に頭突きをしていた。これまで手を出さないように気をつけていたが、頭が出てしまった。「出てってくれ! X社の製品も全部家から出してくれ!」。そう言い残し、僕は家を出た。

夜、家に帰ると、妻と娘の姿はどこにもなかった。X社の製品は、すべて家からなくなっていた。平泉さんとX社の仲間たちが家にやってきて、荷物を運び出していったことは察しがついた。他にすぐに家に来て荷物を運び出せる人は思い当たらなかったから。それ以来、妻と娘が帰ってくることはなかった。妻と娘が平泉さんの家で暮らしはじめたのを知ったのは、だいぶあとになってからだった。

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