救急医は「なんでも診る」が基本

体全体を診る「総合診療」という大きな枠組みがあるとするなら、ERで働くドクター、すなわち救急医はその入り口に位置する存在。救急医はすべての科の基本的知識と初期診療に対応する技術を持ち、必要があれば各科に振り分ける。しかし国内で内科医約6万人、外科医約1万4000人に対し、救急医はわずか5300人。

もちろん、医師免許があれば「救急医療に携わる」ことができる。当直で救急担当になった場合などがそうだ。だが、救急医はそれとは一線を画し、他の科の専門医と同様に、“救急”という部門を専門的に学んだ医師である。だから救急を専門とする医師は「私は○○科ですから、これしか診られません」とは言わない。救急医は「なんでも診る」が基本なのだ。

「同じく、しっかりとトレーニングを受けた感染症の専門医も臓器によらず、全身の感染症を診療することができる」と岡医師が補足する。

湘南鎌倉総合病院には全国各地から救急医が集まり、ERが機能している。そのため救急車の搬送であれば「ER」で救急医が患者の選別と初期治療を、患者自らが歩いて救急医療を受診した際は看護師のトリアージで選別する構図が可能になる(図表2)。

1万4858件の救急車搬送を受け入れた「日本一の救急病院」

湘南鎌倉総合病院のERでは2020年に1万4858件の救急車搬送(歩いて救急外来を受診した患者も含めると計4万3199人)を受け入れた。同院の救急車搬送受け入れ数はここ数年日本一。ちなみに、東京都内では年間1万件を超えて救急車を受け入れている病院は、聖路加国際病院1万187件、国立国際医療研究センター病院1万1130件のわずか2病院のみ(2017年度)である。

電話をうける救急救命士(筆者撮影)

新型コロナを含む感染症の院内感染は起きていない。これほどの人数を受け入れているのに、と驚いた。ERの医師も一人として新型コロナに感染していない。

「その理由は、実は僕たちにもはっきりとはわかりません」と山上医師は言う。

「一つには入院させる時には、疾患を問わず、すべての患者に新型コロナの検査をします。しかしそういったところでも院内感染が起きていますね。あえて言うなら、私たちは仮に陰性であっても、基本に忠実な姿勢で治療をしています。普通の診察ではマスクやゴーグルで大丈夫ですが、胸骨圧迫(いわゆる心臓マッサージ)や気管挿管(気管にチューブを挿入して肺に酸素を送る)はもちろん、痰を吸引する、鼻出血や縫合など患者がマスクを外しての処置時は感染リスクが高まるので、フル装備で行っています。綿棒でPCR検査をする時も、くしゃみをされたらアウトなので、患者さんに瞬間的にビニール袋をかぶせて行うなどの工夫をしています」

治療と同時に新型コロナの検査を行うものの、いずれにしても医師や看護師は「感染症患者」に接しているものとして医療行為をしているという。

筆者撮影
これからコロナ入院患者に接するERの医師に防護服を装着する

「感染症を含めた疾患を最初に診ることが救急医療」と、山上医師。そして「私たちは救急告示病院を掲げているから、地域の救急患者を断らないと腹をくくっている」と、繰り返す。