「コロナにかかったのではないか」という不安
60代女性で、「12月28日に息子がコロナ陽性となって、保健所から、濃厚接触者なので医療機関を受診してくださいと言われて……」と、話す。女性は普段、息子とは離れて生活していた。
27日に帰省した息子が28日に新型コロナを発症。息子は28日以降、療養施設に入院し、現在も母親と離れて生活している。陽性者となった息子と接触したのは2020年12月27日と28日の1日半のみ。しかもこの女性は年末(12月31日)にすでに一度検査をして「陰性」と判定されているのだ。
「今、何か症状はありますか?」と狩野さん。
「熱と咳があって……」
その女性が答える。熱は36度台で、話している間に咳は一度もなかった。それでも「コロナにかかったのではないか」という不安を口にする。
「外の世界に生きている限り、感染リスクはありますから」
狩野さんは穏やかな口調でそう話す。
「どうすれば安全に、すべての患者を受け入れられるか」
新型コロナの流行とともに、トリアージでは「緑・白」の“低緊急”の割合が増えた。受診する患者は、37度前後の微熱を訴える人が圧倒的に多いという。介護施設で働く人など、「知らずに周りに移しては申し訳ない」という気持ちから受診する人もいる。
同院救命救急センター長の山上浩医師はこう話す。
「例年、インフルエンザによって救急医療はパンクしていました。救急医の仲間と『インフルエンザにかかっても、若くて健康な人は薬もいらないし、自宅療養してください』と毎年声をあげてきたのですが、くる日もくる日もインフルエンザの患者が殺到しました。コロナも同じ状況だと思います」
山上医師が率いる同院の救命救急センター(=ER)、そして集中治療部では「どうすれば安全に、すべての患者を受け入れられるか」を常に考えている。「患者数増加→ベッドが満床→救急患者を断る」という姿勢ではないのだ。
だから、院外に「発熱外来」を建て、地域の開業医を含めて人を集めた。神奈川県が申し出た新型コロナ患者を入院させる「専用病棟」の建設も受諾し、治療にも参加した。院内のER一画には「コロナ疑いの患者を経過観察する病床」も確保。そしてERを中心として診断を下し、同院を訪れた患者、救急車で搬送された患者を“振り分けていく”のだ。
しかし日本では、多くの病院がこのような体制をとれない。ある救急医からは「今、“崩壊”と叫ぶほど、国内の医療体制はもともと整っていなかったのではないか」という声もあがった。