各科の当番制だから「その患者は診られない」が頻発する

簡単に日本独自の救急医療体制を説明しよう。

救急医療においては「救急告示病院(救急指定病院)」が重要な役割を担う。救急指定病院とは「救急患者の診察に協力できる」という旨を都道府県に申し出た医療機関のうち、要件を満たし、かつ都道府県知事により認定された病院を指す。

救急指定病院は3段階に分けられる。入院や手術を伴わない軽症患者に対応する「一次救急」、入院や手術を必要とする患者に対応し、24時間体制の「二次救急」、一次や二次では対応できない重症疾患に対する「三次救急」だ。湘南鎌倉総合病院のような「救命救急センター」は三次にあたる。

湘南鎌倉総合病院 救命救急センター長の山上浩医師(筆者撮影)

一次・二次・三次と重症度に応じて医療機関を分類することは、一見、優れたシステムのように思えるが、ここには大きな落とし穴がある。患者を受診前、すなわち医師の診断前に“選別”するため、「重症疾患の見落とし」が起こり得るのだ。

実際にこれまで、本来助かるはずであった患者が命を落とす痛ましい事件が、全国各地でいくつも起こった。患者本人や救急隊らが「見える情報」だけで重症度を判定する構造に、無理があるのだ。

また、一次救急や二次救急を中心として国内で最も多い救急医療の形態は、「各科相乗り型」と呼ばれるスタイル。多くの場合は各科の当番制で救急患者に対応するため、「今夜は整形外科医が当番だから、その患者は診られない」といった事態が日常茶飯事。だから「たらいまわし」が起きる。

海外ではすべての救急患者を「ER」が最初に診る

それではどうすればいいか。

海外の救急医療システムでは、軽症から重症まで、すべての救急患者を「救急科専門医」(以下、救急医)が最初に診療するのが主流である。これをER(=Emergency Roomの略称)型といい、日本もこれに倣えばいいと私は思う。ERでは赤ちゃんから高齢者まで、単なる風邪から心肺停止まで、そして内科から外科、眼科、耳鼻科、小児科、精神科まで、24時間365日、ありとあらゆる患者を診る。もちろんそこには今回の新型コロナのような「感染症」も含まれる。

埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科教授の岡秀昭医師は「これまで臓器別の専門医ばかりの養成を行ってきた」と話す。

「心臓や脳、肺などの専門診療が重視され、感染症専門や集中治療、総合診療、救急医療、周産期など臓器を横断するような医療に関しては重視されず、ニーズが認められていないところがありました」

日本では「臓器別」が重要視され、体全体をトータルで診る医師が非常に少ない。医師が自由に、自分の“好きな科”を選べるためだ。