「三カ月間の休養を命じられた、迷惑をかけて申し訳ない」
だが、松井社長が自分の考えを改めることはなかった。
「春画ばかりでなく、最近のいくつかの記事には、明らかにブレーキが利いていなかった。部数が落ちて新谷は焦っている。このまま機関車みたいに突っ走っていくと危ない。純粋にそう感じたんです。新谷は極めて優秀な編集長。これからも長く続けてほしい。だからこそ、ここで休ませた方がいいと思った。新谷には一度頭をからっぽにしてくれ、焦ることは何もないんだからと言いました。それが俺の、嘘偽りのない気持ちです」
明日から三カ月間は会社に出なくていい。編集長不在の間は、常務取締役の木俣正剛と編集局長の鈴木洋嗣が代行する。
新谷は、社長の指示に従うほかなかった。
部屋の外で待っていた元編集長のふたりに最低限の引き継ぎを行い、デスクたちには「三カ月間の休養を命じられた、迷惑をかけて申し訳ない」とメールで伝えた。彼らも突然の休養処分の理由がのみ込めないようだった。すべての編集部員に、直接休養処分の経緯を説明して謝罪したかったが、明日から会社に出るなと命じられた以上は不可能だ。
社内に相談できる人間はほとんどいなかった
これから自分はどうすればいいのだろう?
誰かに話を聞いてほしかった。
少しでもヒントをもらいたかった。
だが、社内に相談できる人間はほとんどいなかった。
では、社外にいるのか?
週刊誌編集長の孤独を知る人間が。
周囲から批判され、処分を受けて苦しんだ経験を持つ人間が。
そんな人間を、新谷はひとりしか知らなかった。
新谷学は、花田紀凱に電話を入れた。