ユンボの先がつまんだ土工の生首

40手前の山田君は風呂に入るたびに鏡の前でニヤニヤしていた。エグザイルを意識しているらしく、昔は見た目がアツシそのものだったそうだ。だがどこでも構わずはだしで歩くなどの奇行が目立ち、訳も分からず他のドカタに顔面をボコボコに張り倒される日々。ある日突然、「自分頭おかしいんで辞めます」と自ら宣言し、京都の精神科病院に週一で通い始めたという。

國友公司『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)

つい最近辞めた(というよりパクられた)小山君は、ちょっとしたことで相手の顔面をグーで殴るという、かなり危ないやつだ。たとえ相手が老人でもお構いなし。「くしゃみがうるさかった」「目が合った」くらいの理由でいままでに4人のドカタをボコボコにした。ついには社長に呼び出され、殴った理由を話したところ、「それやったらしゃあない」で騒動は完結。小山君もおかしければそれを雇う人間も頭がイっている。

「S建設も大粒ぞろいやけど、京都にあるF興業って会社もエゲつないらしい。その会社は従業員の9割が中国人。会社の前のクレーンには犬がぶら下がっとるらしいぞ。とにかく労働環境がメチャクチャでバンバン死人が出とるらしいわ。ユンボの運転手がよそ見して手元(手伝い)やってる土工の首つまんでな、生首になってしもたんやって」

と坂本さんは言う。まるでサークルみたいなノリで解体作業をするF興業。またあるときは、ユンボを運転する人間が、運転席で注射器を引っ張り出し、その場で覚せい剤を打ちながら作業に励んでいたこともあったという。S建設もF興業もとにかく平凡な人間という者が見当たらないのである。

壮絶な10日間は、私が目を丸くして驚いているうちに、あっという間に過ぎていってしまった。

関連記事
「1位はメガネ小売り」平均年収が低いワースト500社ランキング2020
「セックスレスで人生を終えたくない」コロナ離婚を決意した夫の言い分
2カ月で約30kg痩せた男が白米のかわりにたっぷり食べていたもの
「人は死ぬと腹が割れる」腐敗した遺体に向き合う特殊清掃人の"一番つらい仕事"
私は緊急着陸を招いた「マスク拒否おじさん」にむしろエールを送りたい