※本稿は、花田庚彦『西成で生きる』(彩図社)の一部を再編集したものです。
あいりんセンター周辺で繰り広げられる「人定め」
大阪・西成の朝は早い。
夜が明ける前から仕事を斡旋する人間、仕事を求める人間たちは取り壊されることが決まってはいるが、未だに西成のシンボルとなっているあいりんセンター周辺に集まる。
そこではいい条件を求める労働者と、いかに安く人を使うことができるかの手配師が集まり、品定めならず人定めをしているのだ。
一歩間違えると地獄のような飯場へ行ってしまうという駆け引きが、夜明け前から行われている。
太陽が昇ったころには、仕事を斡旋された労働者は現場に行くバスやバンに乗り、運がいい人間は支給された弁当を食べることが許されているのだ。
今回は“いい手配師”と“悪い手配師”の両方に接触することができたので、それぞれの立場からの仕事や人に対する考えを語ってもらった。
まずは、いい手配師からだ。
元々は現場の職人だった
——名前を教えてください。
「上村です」
仕事を探している西成の労働者に、上村さんを知らない人はいないであろう。外見的な特徴と誠意のある人間性で、現場に仕事を斡旋している人物だ。
——いま人夫出しをされていると紹介を受けたのですが、何人くらい労働者を抱えているのでしょうか。
「ぼくが抱えているのは15人くらいですよ。そんなに抱えても実質面倒見切れないので」
——車いすに乗ってセンターの方に行くんですか。
「基本ぼくはやる気無かったんですよ。元々現場出とった職人なんですよ。脳梗塞で倒れて入院している間も元請けから職人を紹介してくれ、と電話かかってきて。それが積もり積もってこうなったんですよ」
話の通り、上村さんは車いすに乗っている。
その姿は西成の取材中に何度も見かけた。
実際に身体障害者手帳を持っているが、それでも現場から要請があり、労働者を斡旋しているというのは、現場との信頼関係がキチンと築けている証拠であろう。
当然手配師というのは金銭を抜かないと商売にならない。それは繁華街の街頭に立っているスカウトと同じである。
その質問を正直にぶつけた。