日本最大のドヤ街、大阪市西成区あいりん地区の医療現場は他の地域とどう違うのか。同地区で働いていた元看護師は「薬の横流しや、患者の悪質な囲い込みが行われている」という。フリーライターの花田庚彦氏が取材した――。

※本稿は、花田庚彦『西成で生きる』(彩図社)の一部を再編集したものです。

あいりん地区の生活困窮者やホームレスが頼りにする医療機関

国や大阪府、大阪市が中心となりホームレスや生活困窮者の病気などを治療している社会福祉法人大阪社会医療センター(以下、社会医療センター)。

歴史は古く、昭和45年から治療を開始という長い歴史を誇る。

医療水準は失礼な書き方をするが意外と高く、第三セクターが運営している大阪市立大学附属病院から医師が派遣されているために、社会医療センターでは処置できない重病者はすぐ近くの阿倍野にある大阪市立大学医学部附属病院に搬送されるなど、この地域に住む生活保護を受けている生活困窮者やホームレスは頼りにしているという。

社会医療センターは今も機能しているが、建物自体が老朽化のために取り壊される予定で近隣に建て替えをしている。それをきっかけに離職したという人間に話を聞くことができた。

かつて社会医療センターに勤務していた元看護師の吉田さん(仮名)は、社会医療センターを含むあいりん地区の医療問題に対して大きな疑問を抱き、この地域の医療から離れた。

社会医療センターが抱える大きな社会問題

——何に対して大きな疑問を持っているんですか?

「社会医療センターは4階に受付があって、簡単な診察はそこで行い、薬などもそこで渡すんやけど、それが大きな社会問題になっているのを勤務していた私たちは見逃していたんです」

と、吉田さんは今も悔やんでいるという。

この社会医療センターでは、病院に掛かる診察費のお金がない人なども受け入れるために、診察を求める患者が途絶えることはない。また、その医療設備の整っている社会医療センターの上の階には入院設備も備えているため、この地域に暮らす人々にとっては非常に助かっている存在であろう。

ここで、社会医療センターについて吉田さんの説明を加えて解説する。

あいりん総合センターの中にある社会医療センターは、3つの根本的な考えで成り立っていると吉田さんは話す。